471 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE :04/11/04 12:19:20 ID:HUpgiKx8
「N君のバイク」

昨夜の話。
昨夜はとても大事な日だったのだが思いっきり失念していた。
夜寝てから妙に寝苦しかった。
空気が重い。
戸棚のガラス板がかたかたと音を立てている。
階下から「ぉぉーーぃぃ!」とかすかな声がする。
このくらいの事は意外とある事なので単に寝苦しいだけだと思い極力無視して無理矢理猫を抱いて寝た。
寝入りばなに「ちょわ~~んちょわ~~ん」という京劇のような音がしたのがいつもとは違っていた。

夢。
木造の農作業小屋のような二階建ての建物の中にいる。
どこか見覚えのある小屋。
ああ、この小屋は厨房の時よく隠れて煙草吸ったりエロ本読んだりした小屋だ。
この場所で隣の中学のヤンキーをボコッたりしたっけ。
そう思っていると階下から数人、階段を上がってくる音がした。
「ぎっ・・・ぎっ・・・ぎっ」
いやにはっきり聞こえた。
「てめぇぇ~~~~~~~~!!!」
聞き覚えのある甲高い凄みのある声。
その声が小屋の中全体から響いてきた。



472 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE :04/11/04 12:40:00 ID:HUpgiKx8
急に手足を絡めとられるように動けなくなった。
明らかに背後から誰かに絡めとられているような感じ。
がっちりホールドされていて夢の中なのに動けなくて苦しかった。
紫色の人影が階下から上がってくる。
シルエットは明らかにおかしかった。
腕の関節がやたらに多くて頭に至っては1/3ほど欠けている。

思い出した声の主はN君だった。
目の前にいるシルエットこそがN君だった。
「ざけんじゃねぇ~~ぞ!!ぶっとばすぞ!!」
また小屋全体に響く彼の声。
キレそうになると彼はいつもこうだった。
妙に冷静に考えられる自分がいた。
凄い余裕なのだ。

彼に胸ぐらを掴まれてすごまれた。
もう表情も分かる。
右半面はもうぐちゃりとしていた。
左半面はそれほど崩れてはいないが目は明後日の方向を向いていた。
いまでは国宝もののリーゼントが少し崩れていたものの紫の輝きを受けて輝いていた。
「ぶっとばすぞ!ぶっとばすぞ!ぶっとばすぞ!」
彼はまくしたてた。
そのまま胸ぐらを掴まれて階下に引きずられて行った。

477 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE :04/11/04 13:09:41 ID:HUpgiKx8
なすがままに階下に引きずられて行くと入り口にでかいバイクが置いてあった。
エンジンはかかったままで十分暖まっているのが分かる。
N君は俺を外に突き飛ばすとそのバイクにまたがって、
「ぶっとばすぞ!!ぶっとばすぞ!!ぶっとばすぞ!!」
とまだすごんでいた。
右足は無かった。

「ぱぁんんぱぱぱぱぱぱぱ。ぱうーーーん」
と改造バイクはこれまた甲高い音を立てた。
「つぶすぞ!!こら!!」
彼はそう言い放ってバイクを発進させた。

パァーーーーーーーーーーンン・・・・
とあっという間に視界から消えた。
聞き覚えのあるメロディが聞こえて来て目が覚めた。
まだ胸ぐらを掴まれた感触が残っているような気がして最悪の目覚めだった。
しかし、なんでN君が夢に出てきたのか?
これだけがまだこの時点で疑問だった。
彼は中学を卒業してすぐにバイク事故で死んでいる。
葬式にも行った。
それからは彼の話題は仲間内からは特に出る事もなくいままでこうして来ている。
仲間達はそれぞれ自立し、所帯持ちも毒男もいるがおおむね平和だった。

479 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE :04/11/04 13:21:33 ID:HUpgiKx8
頭をひねりながら便所へ向かった。
まだ分からない。
便座の蓋をあげて用を足してふとタンクに目をやると紙のようなものがひらひらと揺れている。
どうも便所紙を少し細工したような神社にぶらさがっている紙のよう。
手に取ってみて見ると煙草の焼けこげで書かれたような文字が刻まれていた。
「ぶっとばす」
そう書かれていた。
急に目が覚めた。

そして思い出した。
今日はN君の事故った日だった。
携帯を握りしめて当時の仲間を呼び出す。
彼の元では特におかしな事もなかった。
なぜ俺なのか分からないけどすっかり忘れていた。
仏壇に線香を立ててしばし黙祷。
忘れていてごめん。
とにかく謝った。

480 :クワズイモ ◆mwvVwApsXE :04/11/04 13:24:28 ID:HUpgiKx8
つまんなくて済まんかった。
でも書き残したかったし、書きたかったから書いた。
そんだけだ。


元スレ:死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?87