31 :本当にあった怖い名無し:2006/09/22(金) 15:03:35 ID:svxU4UPp0

大学2年の夏、俺は友人達と一緒に海に遊びに行っていた。
友人の一人が穴場を見つけたらしく、そこに仲間を誘って出かけた。
穴場というのは本当のようで、時期が遅かった事を差し引いても、
その海岸にはほとんど人がいなかった。

「泳がんのか?」
ひとしきり海で騒いだ後、ビーチパラソルの下で
陸に揚げたクラゲみたいになってる奴に俺は声をかけた。
「・・・・・・。」
「返事が無いようだが、ただの屍か?」
「・・・うるさい。」
どうやらまだ息があるらしい。
横においてあるクーラーボックスから冷えたウーロン茶を二つ取り出して、
片方を腰くらいの高さからそいつの腹にめがけて落とす。
腹に当たる直前にそいつは缶を見事にキャッチした。
左腕で自分の目を覆ったまま。
相変わらずの勘の良さだ。

「打ちひしがれる乙女に対してのこの仕打ち・・・まさに外道ね。」
気だるそうに起き上がりながら、俺を咎めるような目つきで見ている。
「俺のジェントリズムが分からないとは、まだまだ修行が足りんな。
・・・日に当たってないとはいえ、水分摂らんと熱中症になるぞ。」
反論する気力も無いのか納得したのか、そいつは黙ってウーロン茶を飲み始めた。
遊びまくって疲れていた俺は、そいつの横に座って同じように缶を傾ける。




32 :本当にあった怖い名無し:2006/09/22(金) 15:04:48 ID:svxU4UPp0
「で、泳がんのか?」
黙っていても何なので、最初の質問を繰り返す。
「海、嫌い。」
いつもの饒舌さとは正反対の簡素な返事だった。
横目で見ると炎天下の犬みたいなやりきれない表情をしている。
「まぁ、暑いしな。北国育ちには辛いだろうよ。」
うん、と曖昧な返事。
会話が続かない。
辛い奴と無理に話すこともないか、と俺は口を噤んだ。
ぼーっと海を見る。
友人達がハシャいでる。結構遠くまで行っているにも関わらず、
黄色い声がここまで聞こえてくる。
「あのさぁ・・・。」
ぽんっと沸いたような言葉に少し驚いて、横を見た。
彼女が真剣な顔をしてこっちを見ている。
「今、見える範囲に何人の人間がいる?」
この目、この調子…来た、と思った。

俺の横に居るこいつは、異界の者が「見える」。
俺もそういった話が嫌いじゃないから、こいつにそういった話をせがむこともあるが、
一回も見たことなんてない。
でも、いるかいないかと聞かれれば「いると思う」と答える。
俺はそんな曖昧な立ち位置だ。

33 :本当にあった怖い名無し:2006/09/22(金) 15:05:33 ID:svxU4UPp0
「見える範囲で…俺らのグループが6人で、あっちの家族連れが3人。
釣りしてるおっさんが1人と・・・お前を入れて11人だな。」
周囲をグルッと見回しながら、俺に見える人数を彼女に告げた。
リアクションは、そっか、の一言だけ。
それだけを言って、彼女は黙っている。
「で、お前は何人見えてるんだ?」
沈黙に耐え切れなくなって、俺は聞いた。
質問に答えず、彼女はウーロン茶を飲みこむ。
コクッと小さい音がして、そこだけ別の生き物みたいに艶かしく喉が動いた。
ウーロン茶を飲み干し、ぷはぁっ!とオッサンくさい息を一つ吐いて、
「10人。」
短く答えた。

「…は?」
こいつのことだ。きっと1人か2人多く見ているんだろうと思って身構えていたのだが、
あっさりと予想を裏切られた。
慌ててもう一度周囲を見渡す。
さっきより遠くに行って見にくいが、俺の友達は全部で6人。間違いない。
ずっと砂浜で子供と遊んでる家族連れは3人。間違いない。
少し離れた防波堤で釣りをしている黒服のおっさんが1人。これも間違いない。
ここまでで10人。
俺は11人目に目を視線を移した。
相変わらず熱でやられた顔をしているが、目だけは輝いている。
一番怪しいのはこいつだ。何か怪異があるとしたら、こいつに違いない。
俺は少し後退った。

34 :本当にあった怖い名無し:2006/09/22(金) 15:06:11 ID:svxU4UPp0
「…私ゃ生きてるってば。」
確かに目の前にくっきりと見えていて、話している奴が幽霊だなんて信じたくもない。
改めて周囲を見渡す。
11人だ。間違いない。
となると、
「貴様、騙したな…?」
答えはこれしか考えられない。
こいつの語りは信じ込ませる力があるから怖い。
何も答えない彼女を軽く睨んでいると、友人達がドヤドヤと浜に上がってきた。
皆一様に楽しそうに疲れている。いいことだ。

1泊して次の日に帰る予定だったので、その後は予約していた旅館に全員で移動した。
移動している最中も、俺はなんとなく割り切れない気持ちで一杯だった。

俺の知る限り、彼女は怪異に関して嘘をついたことが無い。
もしかしたら嘘でも、それは本当だと信じることができる力強い嘘だった。
それが今回は違った。そのことが何となく悔しく、不愉快だった。

35 :本当にあった怖い名無し:2006/09/22(金) 15:06:51 ID:svxU4UPp0

旅館の飯はまぁまぁだったが、そんなことは関係ない。
要は盛り上がればそれでいい。
そのうち酒も入り、花火をしようということになった。
俺は弱いくせに罰ゲームで何杯か飲まされてヘロヘロだったが、花火はやりたい。
思い通りに動かない身体を引きずって皆についていった。

昼間遊んでいた海岸の脇で、花火を始めた。
俺も混じりたかったが、酒のせいで気分が悪く、テトラポッドに腰を降ろして、
皆が花火遊びに興じる様子をボーっと見ていた。
「やられてるねぇ~。」
背後からの弾んだ声に振り返ると、彼女が立っていた。
酒のせいで具合が悪かったことと昼間の出来事を思い出したことで、
俺はそっけない返事だけを返して彼女から視線を外した。

「何不貞腐れてんのよ?」
彼女はそう言いながら、俺の横に腰を降ろした。
「別に…酒で具合が悪いだけだ。放っとけ。」
「昼間の事、気にしてる?」
ドキッとした。
こいつの勘の良さには敵わない。
「まぁ、な。何で騙した?」
俺は正直に答えた。
「別に騙してなんかいないよ。ただの視界の問題。」
種明かしをする子供みたいに楽しそうに、彼女は言った。

36 :本当にあった怖い名無し:2006/09/22(金) 15:08:20 ID:svxU4UPp0
「視界?」
「そう、視界。あの時『見える範囲で』って言ったでしょ。
釣りをしていたあのオジさん、あの時はあんたがいたから
私からは死角になって見えなかったのよ。
だから、私から『見える範囲』の人数は10人!」
馬鹿らしくて少し笑った。
そんな簡単なことだったのか。
俺が勝手に幽霊だ何だと結びつけて、勝手に凹んでただけか。
少し、気分がよくなった気がした。

「でもね、皆が来て移動する時に、私、何気なくあのオジさんの事見たの。
死角が無くて、あの時海岸にいた全員を見渡せる状態でも、私の答えはやっぱり10人。」
「は?お前、何言って・・・」
「海水浴場からあんな近いところで、釣りをする人いる?いないでしょ。
だいたい、海水浴場は釣り禁止。
それに、この夏場の直射日光の下で、黒の長袖着て釣りする人いる?」

まくし立てる彼女を、俺は呆然と見つめていた。
冷静に考えてみて、そんな奴いるわけない。
何も言えない俺にニッと笑顔を見せて、
「10人!」
彼女は改めて宣言した。



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