40 :本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 02:55:05 ID:j4lr/dkY0
一度、例の「見える」彼女と俺を含めた8人で、百物語をやったことがある。
言い出したのは、俺でも彼女でもない。
別の友人が集まって騒ぐ口実に言い出したものだ。
最初は参加を渋っていた彼女も、講義のまとめノートを条件に強引に参加させた。
開催場所は俺の部屋。

結論から言うと、この百物語自体は大したものじゃなかった。
どこかで聞いたような話がたどたどしく話される。
途中で誰かのメールが鳴ったりして、雰囲気もぶち壊しだ。
俺はすっかり白けていた。
俺の順番がきて、その時覚えていた稲川淳二の「先輩の鳩」を話す。
話し終わって皆を見渡す。どうやら自分の想像以上に効いたらしい。
皆顔を強張らせて、黙っている。
蝋燭の火がじじっと音を立てて、揺れた。
彼女の番が来る。
薄暗い部屋の空気が少し重くなった気がした。

一息吸って、彼女が話し出す。





41 :本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 02:55:49 ID:j4lr/dkY0
「ある時ね、友達皆で集まって、宴会をしようってことになったの。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、その宴会はお開きになった。
宴会場所を提供していた家主は、片づけを終わらせた後、
シャワーを浴びることにしたの。」
話している彼女に視線を向けた。
蝋燭の明かりを見つめながら、表情を変えずに滔々と喋り続けている。
「彼はシャワーを浴び始めた。髪を洗う。顔を洗う。身体を洗う。
その光景をじっと見ている女がいるの。
浴槽の中にうずくまって、彼のことをじぃっと見ている。
何も喋らず、微動だにしないで。ただ、じぃっと家主を見ている。」

「彼は結局、最後まで彼女に気付かなかったわ。そのままシャワー室を出た。
彼はきっと、今でもその浴室を使っているんじゃないかな。」

彼女は話し終えてふぅっと息を吐いた。
蝋燭の火が吐息で揺れて、消えた。
真っ暗になった部屋の中、俺は立ち上がり、電気を付けた。
眩しすぎる光に目を細めながら、彼女を見た。
彼女はこっちを見て、微笑を浮かべていた。

その後、友人達は近くの公園に遊びに行くと言って部屋を出て行った。
むしろこっちが本命だったのだろう。
さっきまでの怪談話もそっちのけで盛り上がっている。
俺は彼女の話が気になっていた。


42 :本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 02:56:33 ID:j4lr/dkY0
「お前の話に出てきた家主、結局最後まで女には気付かなかったんだろ。
だったら、それが話として残るわけがないんだ。
家主が気付いていないんなら、それは単なる日常のワンシーンで終わるはずだ。」
機を見て友人達と少し離れ、俺は彼女に聞いてみた。
うん、と彼女は一つ頷く。
「でもね、本人が気付いていない場合でも、話として残る場合があるの。
さて、それはどんな状況でしょう?」
「・・・周囲の人間が見た場合、か?」
「正解。」
つまり、さっきの話は家主ではなく、語り部である彼女が見た光景と言うことになる。
それにしたって、彼女の話にしては、怖くない。
少し残念だったが、彼女だってあのぬるい百物語の中で
真面目に話そうって気にはなれなかったんだろう。
そう思って、俺は納得した。
「・・・・・・怖い話ってさ、誰が一番怖いと思う?」
が、どうやら話はまだ終わらないらしい。

「誰がって、聞いてる奴じゃないのか?
話している奴は落ちとか知ってるから心の準備が出来ているだろうし。」
これ以上話を聞くと、怖い目に遭うと分かっていても、俺は答えていた。
好奇心もあるが、なにより、彼女の話が逃げることを許さない。
いつもそんな感じだ。
「外れ。正解は『その話の登場人物』
話を聞いたって他人事だけど、当事者にとってみればたまったもんじゃないでしょ。」
「そりゃそうだが、それとこれと何の関係が?」
「私は『怖い話』しろって言われた。だから"私"は、怖い話をしたの。」
答えになっていない。
だが、聞いた瞬間、なんとなく分かってしまった。
家主=彼なんじゃない。
家主=うずくまっている女だったんだ。
そして、その女は、おそらく目の前にいるこいつなんだろう。

43 :本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 02:57:50 ID:j4lr/dkY0
こいつはきっと怖かったんだ。
身近にそういった世界がありすぎる彼女は、
自分がそっち側に行ったんじゃないかと恐怖したんだろう。
だから、自分が幽霊みたいに聞こえる話をしたに違いない。

「それにしても、アホな男だな。
シャワー浴びようとしてたってことは、その女は裸だったんだろ。
全裸でうずくまっている女がいるのに気にも留めなんてな。
俺なら凝視するぞ。」
だから、俺は馬鹿にした。
初めて彼女のしてくれた話を鼻で笑った。
殊更「凝視する」を強調して言ってやった。
彼女はポカンとした表情を浮かべて俺を見ていた。

俺の言いたい事が伝わったんだろうか。
彼女は微妙な笑顔を浮かべながら、色々と文句を言ってきた。
彼女の罵詈雑言を聞き流しながら、俺達は騒ぎ続ける友人達の方に歩き出した・・・・・・。

44 :本当にあった怖い名無し:2006/09/25(月) 03:01:52 ID:j4lr/dkY0

と、ここまでだったら「俺、いい人」で話は終わっていた。
実はこの話、後日談がある。

百物語からしばらく経ったある日、彼女が俺を訪ねてきた。
なんのかんのと雑談して、彼女は帰った。
いつも怪異について話しているわけじゃない。むしろ、こっちが普通だ。
ただ、帰り際に彼女が、
「この前の怖い話、もう一回考えてごらん。」
とニヤつきながら言った。

一人になって考える。別におかしなところは何もない。
・・・待てよ。
彼女の性格上、たとえ不安でもそれを人に話すような真似はしない。
となると、やっぱり彼女が見た光景ってことになる。
しばらく考えて、嫌な仮説に行き当たった。

怖い話ってのは、あくまで誰かに聞かせるためのものだ。
語り部にとって怖い話をしても、周りの人間にその怖さは100%は伝わらない。
他人事だからだ。
100%の恐怖を味あわせるには、聞き手が話の主人公である必要がある。
彼女はそれを理解して、その上であの話をした。
つまり、彼女がした怖い話の登場人物は、
あの時百物語に参加していた彼女以外の誰かってことになる。
そして、彼女に「怖い話をしてくれ」と頼んだのは、俺。

もしかして・・・
家主=俺?

ぴちょん、と一つ、浴室から水音が聞こえてきた。


45 :本当にあった怖い名無し:2006/09/26(火) 21:37:57 ID:R/SyDfF30
ID:svxU4UPp0= ID:j4lr/dkY0かな?
確かに文章はうまいんだが少し難しいな
星新一を初めて読んだ時のような気分になったよ



46 :本当にあった怖い名無し:2006/09/27(水) 00:09:57 ID:dOA6BAXT0
お察しの通り、>>31-36,>>40-44、ついでに、>>22-26は同一人物だ。
連投スマソ。自粛する。

あいつの話し方が回りくどいのと、
俺の文才の無さのお陰でやたらに長く、分かりづらくなった。
にしても、御三家の一人に例えてくれるとは・・・・・・感謝。



47 :本当にあった怖い名無し:2006/09/27(水) 00:45:57 ID:WrKSZpkZO
おもすれー!GJ!大半創作一部事実か…
でもその彼女自体は存在するんだな



48 :本当にあった怖い名無し:2006/09/27(水) 00:51:58 ID:SmCazd8DO
で、見える彼女の事好きなのか?
正直に言っちゃえよ。



49 :本当にあった怖い名無し:2006/09/27(水) 01:00:05 ID:wMJGAfHNO
なにこの一転して中学生メンズみたいなレス


50 :46:2006/09/27(水) 01:11:24 ID:dOA6BAXT0

>>47
お褒めの言葉、感謝。
見える彼女は実在する。話の骨格も本当にあった。
会話とか情景とかを創作してるから「大半創作」ってこと。
正直、奴と話しているときは怖すぎて周囲の事なんざ覚えてない。

>>48
なにその修学旅行の夜的質問w
ちなみに、お互いに恋愛感情はない。

>>49
流れるようなそのツッコミ、素敵。



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