57 :本当にあった怖い名無し:2006/09/30(土) 01:46:25 ID:yrCh3inb0

俺があいつと初めて会ったのは、大学生の新入生歓迎会の時だった。
その年入学した同じ学部の新入生全員を集めて、ホテルの宴会場でやる立食パーティー。
簡単に言えば、学校主催の合コンみたいな感じだ。

俺はその歓迎会の一週間ほど前から、体調がよくなかった。
朝起きた時から疲労が酷く、頭が重い。
熱が一向に出ないにも拘らず、背筋を蟻が這い回るような寒気に襲われたりする。
季節の変り目だから風邪でも引いたんだろう、と深く考えてはいなかった。
実際、活動する分にはまったく問題はない。
一人暮らしを始めたばかりでバイトも決まっていないから、体力を使うこともない。
放っときゃ治るだろ、と軽い気持ちでダラダラと日々を過ごしていた。
ところが、歓迎会の日が来ても、体調は一向に良くならなかった。
それどころか、頭の重さは徐々に増し、寒気も頻繁に感じるようになっている。
もしかしたら風邪なんかじゃなく、もっと厄介な病気かもしれない。
そう思えるほどに、症状は悪化していた。





58 :本当にあった怖い名無し:2006/09/30(土) 01:48:18 ID:yrCh3inb0
歓迎会当日。
休めばいいのだが、先払いした参加費がもったいない。
そんな貧乏根性から俺は歓迎会に参加していた。
気分が悪い。楽しもうにも楽しめない。
余興として貰ったビンゴカードに穴を開けながら、
会場の端にある椅子に力なく腰を下ろしていた。
「さぁ、どんどん行きましょ~。お次はぁ・・・・・・Bの6番でぇす!!」
あ、俺、ビンゴしてる。
気だるそうに手を挙げて、ビンゴを宣言した。
自分でも分かるくらい覇気が無い声だった。
「おや、ビンゴした人、いるみたいですねぇ~。さぁ、こちらにどうぞ~。」
舞台の上に招かれる。簡単な自己紹介をした後、商品を選んだ。
A~Zまでのアルファベットの書かれた箱が、舞台の上に置いてあり、
選んだアルファベットが書いてある箱の中にある賞品を貰える、という仕組みだ。
Dを選んだ。正直、賞品などなんでもいい。
スポットライトが眩しい。気分が悪い。早く舞台から降りたい。
司会者がおおげさなアクションで、Dの箱を開ける。
中には紙が一枚入っていて『うまい棒』と書かれていた。
「おめでとうございます!!賞品はうまい棒でぇす!!」
舞台の脇からスタッフが巨大な物体を持ってきた。
ドンキホーテとかで売っている、うまい棒の詰め合わせだ。
ちょっとした抱き枕くらいある。
嬉しくない。デカ過ぎるし、気分が悪い時にうまい棒なんて食えない。
微妙な表情で賞品を受け取り、舞台を後にする。
「お帰りはあちらからどうぞ~。」
司会者が舞台端の階段を指差すが、そこまで行くのも面倒くさい。
舞台の高さは50㎝くらいしかないから、舞台端まで行かず、途中で飛び降りた。

舞台から飛んだ瞬間、足首に強い負荷がかかる。
まるで誰かに思いっきり足首を掴まれた様な、そんな感じだった。
叫び声を上げる間もなく、俺は舞台の下に落ちた。
抱えていた巨大なうまい棒が、大量の「うまい粉」に変化した瞬間だった。

59 :本当にあった怖い名無し:2006/09/30(土) 01:49:41 ID:yrCh3inb0
落ちた後、急いで舞台の上を確かめる。
コードか何かに引っかかったのだと思っていたが、
俺の飛び降りた場所にそんなものはなかった。
心配そうに駆け寄ってくるスタッフに、大丈夫です、と笑顔を見せた。
痛む膝を撫でながらさっきまで腰掛けていた椅子にまた腰を下ろし、
何をするでもなく、ぼんやりと司会者の声に耳を傾けていた。
ふと、視線を感じた。

周囲を見ると、女が真剣な顔で俺を見ていた。視線の主は彼女らしい。
外見は至って普通だが、なんとなく周囲の人とは雰囲気が違う。
目が合う。女が目を逸らす。
何となく気になった。別に俺に気があるとかじゃないようだ。じゃあ、なぜ俺を見る。
俺はその女の方に歩いていった。
あからさまに「うわっ、こっち来た。」って顔してやがる。
俺はそ知らぬ風に、そいつの近くのテーブルに置いてあった
フルーツポンチをすくって、食べた。
生まれてこの方、知らない女に声をかけたことなんかない。
とりあえず声をかけなきゃ。全てはそれからだ。
自然な会話の切り出し方を考えて、俺は言った。
「食べる?」
女はキョトンとしてる。そりゃそうだ。
見ず知らずの男にフルーツポンチ薦められてみろ。誰だってヒく。

軽く謝って、自分の名前を告げた。彼女も自分の名前を教えてくれる。
ちょっと珍しい苗字だったので、しばらく苗字や出身地の話で盛り上がった。
その間、彼女はずっと微妙に頬を引きつらせていた。
やっぱり警戒するよな、とか考えながら、こっちを見ていたことに話題を変えた。
「さっき目合ったけど、もしかしてなんか見えた?
いや、さっき転んだ時、誰かに足を引っ張られたような感じがしてさ。」
目の前の女が幽霊とか信じていなかったら、ただの自意識過剰の変な奴だ。
彼女はしばらく困ったように唸っていたが、唐突に顔を上げて、俺を見た。

60 :本当にあった怖い名無し:2006/09/30(土) 01:51:48 ID:yrCh3inb0

「正直言うと、かなり見えてます。」
驚いた。現在進行形だ。そりゃ頬も引きつる。
返答に困っていると、「付いてきてください」と彼女は歩き出した。
素直に付いて行く。着いたところは人気のないロビーだった。

「え~と、まず最初に、私が「見える」って事を誰にも言わないでください。
次に、ちょっと変なことするけど、気にしないでください。
最後に、この事が済んだらもう私に関わらないでください。」
俺の目をじぃっと見て、矢継ぎ早に言う。
小さく頷くと、彼女は後ろに回って、俺の背中に手を置いた。
もしかして変な奴に声をかけちまったかな、と思い始めたとき、
「もういいですよ。」
と声がして、彼女がゆっくりと手を離した。
振り返って彼女を見る。驚くほど青い顔をしていた。
「だ、大丈夫・・・?やたらと顔青いけど・・・。」
大丈夫、大丈夫、と手をひらひらさせている。
とても大丈夫そうに見えないので、近くにあったソファーに座らせた。
彼女は目をつぶって、気分の悪さに耐えているようだった。

「ねぇ、俺に憑いてたのって、何・・・?」
声をかけるのも悪いかと思ったが、どうしても気になる。
「ヒルコ、っていっても、分からないか。」
ソファの背もたれに身を預けたまま、彼女が答えてくれた。
随分と受け答えがぞんざいになっているが、こっちが素だろう。俺は気にせず答える。
「いや、一応知ってる。イザナギとイザナミの最初の子供だろ。
人の形をしていなかったから、流されたってやつ。ってか、そんなものが憑いてたのか。」
神話やオカルトは大好きだ。そっち系の知識は少なからず持っている。
「詳しいねぇ。まぁ、ヒルコっていっても、私が適当にそう呼んでいるだけだから。
色んなものが一杯集まって、もう人の形をしてないの。だから、ヒルコ。
見た目的には、真っ黒い肉の塊。あんなの連れてたら、そりゃ具合も悪くなるでしょ。」
頷く。そういえば、今は気分がいい。頭の隅に重さは残っているが、寒気は消えていた。
俺は初めて「見える」奴に出会った事で有頂天になっていた。

61 :本当にあった怖い名無し:2006/09/30(土) 01:54:55 ID:yrCh3inb0
「そういやさ、お前、祓えるんだな。すごい力持ってるのか。」
純粋な感心と、少しの興味を込めて、俺は言った。
「祓えないよ。私ゃ神職じゃないし。」
予想外の答えだった。
「いや、だって、俺に憑いてたヒルコ祓ってくれたんだろ。今、かなり気分楽だし。
・・・・・・もしかして、まだ憑いてる?」
ひらひらと手を振る。どうやら憑いてはいないらしい。ほっとした。
「元々ね、お祓いって女には向かないの。
男は放つものだけど、女は受け止めるものだからねぇ。
神降とか降霊は女の方が向いているんだけどね。祓の儀式は男の方が断然得意なのよ。
才能と修行次第じゃ出来るようになるらしいけど、私は無理。そういう家系でもないし。」
なるほど、それは納得できた。
「んじゃ、俺のヒルコはどうやって・・・?俺にはもう憑いてないんだろ?」
彼女はもういいでしょ、という顔をしているが気にしない。
言わなきゃ動かないということが分かったんだろう。渋々といった様子で話してくれた。

「言ったでしょ、女は受け止めるもの。あんたのヒルコを私が受け止めたの。」
愕然とした。俺は自分の背負っていた荷物を目の前の彼女に背負わせてしまったらしい。
それでさっきから気分が悪いのか。除霊して疲れているものだとばかり思っていた。
「す、すまん。戻してくれても構わないから。お祓い行って、何とかするから。」
本気で言った。彼女は力なく笑う。
「もう遅いって。水は高い方に流れない。
だいたい、あそこまで大きくなったヒルコを祓える人間なんていないよ。
あのままだと、いつかあんたもヒルコの仲間入り。」
そんな大層なものを背負っていたなんて知らなかった。
「でも、このままだとお前が・・・」
死ぬんじゃないか、と言う前に彼女が言った。
「私は大丈夫。死なないから。」
何が根拠かは分からないが、彼女の目を見た瞬間「あぁ、きっと大丈夫だ」と思ってしまった。
強い意志を感じさせる目。こいつなら大丈夫だ、と思わせてくれる目だった。

結局、彼女と交わした3つの約束のうち、一番最後は守られないまま、今に至っている。


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