110 :「見える」彼女:2006/10/07(土) 01:38:35 ID:o+TJwrTN0
いきなりでなんだが、まずこの光景を想像して欲しい。

『夜、あなたの家のお風呂場に、全身ずぶ濡れの女が一人立っている』

そして、一番最初にパッと浮かんだ姿を、覚えておいて欲しい。




111 :「見える」彼女:2006/10/07(土) 01:39:57 ID:o+TJwrTN0

「そこで、俺はふと目を覚ましたんだ……枕元に女が立っていた。
 長い髪を垂らして、顔は見えなかった。でも、こっちを見ている。
 視線を感じる。女は何も言わずに、ただじぃっと俺を見つめていた……」
話しを終えて、俺はふぅっと息を吐いた。
俺が感情を込めまくって話したというのに、
目の前の女はつまらなそうに柿の種を食ってる。

大学一年の秋、俺はあることを考えていた。
俺には異界の者が「見える」女友達がいる。そいつとつるんでいるお陰で、
今までいろんな怪異に会ってきたが、そいつが怖がっているところを見たことがない。
いつも飄々と怪異を乗り越えていく。
「……怖がらせてぇ!」
俺がそう思ったのも、自然な流れだろう。
まずはスタンダードに怖い話だ。
そう思った俺は珠玉の話を集めた。話し方も練習した。
彼女の反応は冷たかった。
二話目を終える頃には興味を失ったようで、彼女は柿の種を食べ始めた。
今、五話目を話終えた。柿の種は二袋目に突入している。
飽きもせずに、ポリポリポリポリ……。


112 :「見える」彼女:2006/10/07(土) 01:41:51 ID:o+TJwrTN0
「怖くないのか?」
もしかしたら、怖がっているのを隠しているだけなんじゃないだろうか。
一縷の望みをかけて、俺は聞いた。
「全然。怖くない」
素気無く彼女が答える。どうやら怖い話作戦は失敗だったらしい。
冷静に考えてみれば、そりゃそうだ。
こいつは始終そういったモノを見てる。そんな奴に話しても、
あ~、そうよねぇ~。怖いねぇ~。で終わるに決まってる。
皿に空けた柿の種を食いつくし、彼女が茶を催促してきた。
図々しい奴め、と思いながらも素直に従う。

「ま、頑張って話してくれたようだから、面白いことを教えてあげる」
茶を蒸らしている最中、唐突に彼女が言った。
目が怪しげに輝いている。
「あんたが話してくれた話の中の一話目と五話目、気付いてないかもしれないけど、
 幽霊の描写が同じだったよね」
渋い顔をして頷く。気付いていた。
どっちも全然違う話だが、幽霊の描写だけは酷似していた。
だからこそ、俺は最初と最後にその話をした。
その類似をバレないようにするために。

『白い服、髪の長い女』
それがその2つの話に出てくる幽霊の姿だった。

113 :「見える」彼女:2006/10/07(土) 01:42:58 ID:o+TJwrTN0

「場所も、体験者も、時間も、全く違う別の話なのに、出てくる幽霊だけは似ている。
 さて、これはどういうことでしょう?」
楽しそうに彼女が聞く。
「どういうことって……たまたま似ていただけなんじゃないか?
 白い服で髪の長い女なんて、結構居るだろ?」
そうね、と一つ頷き、彼女が続ける。
「たまたま似ていた。それも可能性の一つ。私は他にもいくつか可能性があると思うわ」
「他って言うと……例えば?」
「一から十まで教えちゃ面白くないから、問題。
 夜、あんたの部屋のお風呂場に、全身ずぶ濡れの女が一人立っています。
 ……さて、どんな背格好の女の幽霊でしょう? パッと思いついたのを答えてみて」
正直に、言われた瞬間浮かんだ想像をそのまま口にした。

「え~と……濡れてるから、服や髪が体に張り付いてるな。
 白いワンピースみたいのを着てる。俯き加減で、髪に隠れて顔は見えな――」

喋りながら、気がついた。俺が口にした女の特徴を簡単にまとめると
「白い服を着た、髪の長い女」だ。
彼女はニヤニヤ笑っている。
「ね、日本人の女幽霊のイメージって、そんな感じなのよ。
 活発そうなショートカットじゃなく、長い髪。
 清純で病弱なイメージの、白い服。
 理由は色々あるんだろうけど、
 長髪が女性の象徴だったことと、死に装束に白が用いられたこと。
 その辺りが関係してくるんじゃないかな。
 ほら、日本の幽霊画って、ほとんど白い服で髪の長い女でしょ?」
言われてみれば、確かにそうだ。
派手な着物を着た幽霊画を見た記憶が無い。


114 :「見える」彼女:2006/10/07(土) 01:44:11 ID:o+TJwrTN0

「つまり、そういうイメージが先行しているから、同じような姿の幽霊を見るのか……
 簡単に言っちまえば、錯覚?」
幽霊とはそういうものだ、と無意識に思っている。
何かが出そうだ、と怯える。
すると、そういう姿をしたものが見えてしまうことがある。
言ってしまえば、勘違いだ。何もいないのに「見た」気になる。

「錯覚って場合もあるでしょうね。
 でも、幽霊が好んでそういう姿をしてるってこともあるのよ」
……一瞬、クローゼットの前で貞子が今日の服を選んでいるところを想像した。
思わず笑いそうになる俺を軽く睨んで、彼女が続ける。
「好んで、って言うのは違うか……。
 幽霊ってのはそういう姿だ。そう思って死んだ人間が幽霊になったとする。
 自分は幽霊だ。そう認識した瞬間、無意識下にあった幽霊のイメージに
 姿が変わるって事も考えられるんじゃない?
 自分が幽霊だ、って気付かなくても、望んでいた姿に変わっている幽霊だっているわ。
 なりたくない、と強く思っていた姿になっちゃう場合もある」
なるほど、そっちの方が話としては面白い。


115 :「見える」彼女:2006/10/07(土) 01:48:47 ID:o+TJwrTN0
「じゃあ、背格好が変わったことのある幽霊って、見たことあるか?」
新しい柿の種をざーっと皿にいれながら、彼女が頷いた。
「見たことあるわよ。小人だったり、巨人だったり。
 最近のを言えば、ガリガリに痩せた子。
 最初は人って分からないくらいに細くなってた。
 痩せたかったんでしょうね、きっと。
 ま、その気持ちは分かるけどねぇ~」
そんな事を言いながら、彼女は次々と柿の種を口に運ぶ。

「ガリガリに、ねぇ……」
俺はその姿を想像して、少し身震いした。
その様子を見て、彼女がゆっくりと口を開く。
「そう、最近。その子見たらお腹空いちゃってさ。
 だから、こうして柿の種なんか食べてるってわけ」
………………。
彼女の目は俺に向けられている。
いや、正確には、俺の肩越しに斜め後ろを見ている。
かりっ……。
柿の種を噛む音がやけに大きく、部屋に響いた。


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