14/10/23
怖い話するね。

私、体重120キロのデブ女で、ゴミ屋敷に父親とふたりで住んでる。

この父親に関して怖い話がいくつかある。父親は私と違ってごく普通の体型の60歳のおじさん。

たまに、ゴミ屋敷の我が家には父の知り合いとか友達が訪ねてくるんだけど、そのときになぜか変なことが起きるんだ。あ、ちなみに私に友達や知り合いはいないから私の客は来ない。

はじめのうちは、その父親の知り合いや友達は普通に会話したりお茶を飲んだりしてるんだけど、だんだん様子が変になっていって、声が大きく怒ったようになっていったり、父親や私を非難するようなことを言うようになるんだよね。



それが1回や2回ではなく、来た人の大半がそんなふうになる。

怖いよ

はじめはにこにことしゃべってるおじさんが、だんだんヒートアップしてきて

「山田家の人間はこういうところがだめだね!山田家はもうこんなゴミ屋敷で仕方ないね!」

って延々と説教を始める。
女のおばさんの場合でも

「あんたらはどうかしてる!もっとちゃんとしなさい!この家はもうあんたたちで終わりだね!この馬鹿どもが!」

て大声をあげる。

で、たいていの人が怒って家を去っていく。ひとりでしゃべってひとりで怒ってひとりで帰っていく。

で、またこのゴミ屋敷に用があってやって来る。またひとりで怒って帰っていく。こんなことが何度も何度も起こる。

あ、ちなみに我が家はたしかにゴミ屋敷だけど、客間とトイレと廊下と風呂場はわりときれいにしてる。車庫と台所と、私と父親の部屋がやばい。

私の部屋にはお菓子やアイスのゴミの入ったビニール袋がいっぱい。あとホコリや髪の毛やペットボトル。

父親の部屋はもっと混沌としてる。なん十冊もの古雑誌、会社や町内会の十年以上前の書類、父の学生時代の教科書、ノート、文房具、その他あらゆるゴミゴミゴミ。

私も父も片付けることができないし、片付ける気力もないし、あと散らかってるほうが落ち着くからゴミまみれなんだよね。

で、話をもとに戻すけど、今まででいちばん恐くてやっかいで、記憶に残ってるお客さんがいるんだよね。

そのひとは父とどういう関係か忘れたんだけど、50代くらいのひとだった。仮に佐藤さんとする。

佐藤さんは、お土産に父の好きなお酒や魚のひものを持ってきて、にこにこ笑いながら父と話してたんだ。

私の作った手料理を食べてほろ酔い気分って感じだった。はじめのうちは。佐藤さんはだんだんだんだんヒートアップしていった。

いやー山田家はほんっとにだめだね!

山田家の人間は仮面被ってるね!

本当の姿を見せないね!

表面だけの付き合いだね!

上っ面だけだね!

それが山田家の特徴なんだろうね!

本当に仕方ないね山田のうちのもんは!

どうしようもないね!

だめだね!

そんなことを、延々と、延々と繰り返した。父はただ仕方なさそうに笑って佐藤さんの話を聞いていた。父は気が弱いたちだから。

私は台所にいて、佐藤さんの大声と、父の、はあ、はあと言う声をきいてた。内心はらはらしてた。で、佐藤さんは急に、黙りこんだ。しーんとなって。どうしたんだろうと思ったら、

帰る!!

と子どもみたいな調子で、叫んだ。佐藤さんはどすどす足音を立てながら玄関まで来たから、

私は「ああ、もうお帰りになるんですか」

といいながら後を追った。佐藤さんは玄関を3、4歩出て、くるっと振り替えってこう言った。

「もう、山田家は終わりだね」

その一言が、本当に残念そうな、むなしい感じのする一言だった。佐藤さんは、それきりもう二度と我が家に来ることはなかった。

いま、父に佐藤さんのことを聞いた。父と高校時代の同級生だったらしい。父は農林高校の土木科を出てる。

父とふたりで、話し合ったこともある。

どうしてうちに来るひと、みんなみんな変な風になるんだろうね。なんで怒るんだろう。どうしてみんなわけのわからないこと言うんだろう。

どうしてだろう、たしかに我が家は壊滅的だよ、ゴミ屋敷だしボロ家だし、母親と他の兄弟は離婚して出ていったし、私は働いてないし。

父は定収入で大酒飲みのアル中。近所親類からは哀れみの目で見られてる。

でも、来た人来た人みんな怒るのはなんかあるんじゃないか。目に見えない原因が。なんか、あるのかな、霊的なものとかが。