13/01/23
もう10年以上前のことになる。

俺は酔っ払って駅からアパートまで歩く途中、公園で休んでたんだよ。そもそも酒飲んだのが嫌なことがあったからで、それが悪酔いして、すごくむしゃくしゃした気分だった。

そしたら俺の座ってるベンチから柵をはさんでちょっと低くなった道路に、いつの間にか自転車に乗った男の子供がいる。8~9歳くらいに見えた。

最初はギョッとしたよ、時間はもう0時近かったからな。
よくよく見ると普通の子供で、なんか話かけたそうにこっちを見てる。俺は酔っ払って心理状態がおかしくなってたんだろうな。その子に向かって

「ガキが夜中にうろつくんじゃねえよ!」

そう言って持ってた缶コーヒーを投げつけた。あてようとしたわけじゃなくて、足元の柵に向かって投げたんだ。実際金属の柵にあたってギーンという音がした。

そしたら子供の顔がくしゃっとゆがんで、そのせまい路地を通りに向かって自転車で全力で走っていった。

俺が「クソガキが!」とつぶやいてベンチから立ち上がろうとしたら、通りのほうで重いブレーキ音がしてそのあと嫌な衝撃音があった。

まさかと思ってそっちにふらふら歩いていったら、大型トラックが交差点に止まってて前輪の後ろに子供用の自転車がくしゃんとつぶれてる。

通りはそんな時間でも人がいて、騒然となってきた。

「子供が轢かれた」という声が聞こえた。俺はそれ以上そこにいられなくて耳をふさいで頭を抱えた。

翌朝すぐに地方紙を見た子供は即死だったようだ。飲食店に勤めてて遅くなる両親を迎えに出たときに事故に遭ったとも書いてある。轢いたトラックの運転手からは相当量のアルコールが検出されたことも。

それを見たとき俺の中で「俺のせいだ」という声と「俺のせいじゃない」という声が両方聞こえた。だがもちろん俺のせいに決まっている。

それから俺はノイローゼ気味になって心療科に通うことになったが、カウンセリングでもこの事故のことは医者にも話しはしなかった。

いろいろ薬をもらってだいぶ回復はしたが、その間に前の仕事はやめてしまった。

事故から2年後新しい職が見つかって通い始めた。それでこの事故のことをすっぱり忘れようと思って、その子供の墓参りにいくことにした。

調べたんだよ、子供の名前と父親の名前は新聞に載ってて、俺のアパートから2区画ほど離れた町内が住所だった。

そこいらの食堂に行って何気なくその話題を出して墓所を聞いてみた。そしたらお寺とかじゃなくて、無宗教の墓地公園にその家の墓があるらしいことがわかった。

その墓地公園は広大なところだったが、事務所に連絡して墓のあるブロックを聞き出した。

そして命日でもなんでもない日曜日に、花とお菓子を買って出かけたんだ。その日は晴れてて丘の上の墓地公園に歩いて登っていった。

その子の墓のあるEブロックまで来たとき、40歳くらいの男の参拝者と一緒になった。

「お参りですか」

と声をかけられたんで

「…ええ」

と答えると

「それはご苦労様です。私は息子と妻の墓参りにきました」

と言うんで、内心まさかと思ったが男は続けて

「息子は事故で亡くなったんです。トラックの酔っ払い運転で…妻その一年後に病死しました。心労だと思います…あなたはどなたの…」

と聞くんで本当のことは言えず

「ええ…母の」

とだけ答えた。父親は

「今日がご命日ですか…私は毎週日曜には来てるんです。どうにもやりきれなくて、ここに来たときだけ少し落ち着くんです」

俺は「それは…お気の毒です。一緒にご焼香させてもらえますか」

とやっと言った。

「ええ ええそれは喜んで…トラックの運転手は今は交通刑務所に収監されていますが、出てきたら私は絶対に許しませんよ。ええ許しません…法に触れるのは覚悟しています」

俺はもう走ってでもその場を離れたい気持ちだったが、なんか魅入られた感じで父親についていった。

墓地公園はみな同じ墓の規格で高さ50cmくらいの小さなものだ。

父親が墓に水をかけて線香やロウソクをあげている間に、俺は数歩下がったところで目をつぶって男の子にわびた。顔も見たことのない奥さんにもわびた。もちろんすぐ前にいる父親にも。

目を開けるとそれまで照っていた日が急にかげって、水をかけられた黒い墓が鏡のように光ってる。

そこにぼんやりと2年間忘れたことのないあの男の子の顔が浮かび上がってきた。ものすごい怒りの顔で俺をにらんでいる。

その後ろにだんだん女の人の顔が浮かんできた。奥さん…男の子の母親なのだろう、やはり怒りの形相で俺をにらんでいる。

父親は手を合わせて一心に拝んでいる。もうすぐ目を開けるだろう、そして墓に浮かんだ顔に気づくだろうか。

二つの恨みのこもった顔は俺だけに見えるのだろうか…それとも。