437: 写真 2006/06/03(土) 12:23:06 ID:3rNkYIQb0
【写真】

大学2回生の春ごろ、オカルト道の師匠である先輩の家にふ
らっと遊びに行った。
ドアを開けると狭い部屋の真ん中で、なにやら難しい顔をし
て写真を見ている。
「なんの写真ですか」
「心霊写真」
ちょっと引いた。
心霊写真がそんなに怖いわけではなかったが、問題は量なの
だ。
畳の床じゅうにアルバムがばらまかれて、数百枚はありそう
だった。
どこでこんなに! と問うと、
「業者」と写真から目を離さずに言うのだ。
どうやら大阪にそういう店があるらしい。
お寺や神社に持ち込まれる心霊写真は、もちろんお払いをし
て欲しいということで依頼されるのだが、たいてい処分もし
て欲しいと頼まれる。
そこで燃やされずに横流しされたモノが、マニアの市場へ出
てくると言う。
信じられない世界だ。

引用元: https://hobby7.5ch.net/test/read.cgi/occult/1148819216/



438: 写真 2006/06/03(土) 12:24:13 ID:3rNkYIQb0
何枚か手にとって見たが、どれも強烈な写真だった。
もやがかかってるだけ、みたいなあっさりしたものはない。
公園で遊ぶ子どもの首がない写真。
海水浴場でどうみても水深がありそうな場所に無表情の男が
膝までしか浸からずに立っている写真。
家族写真なかに祭壇のようなものが脈絡もなく写っている写
真・・・
俺はおそるおそる師匠に聞いた。
「お払い済みなんでしょうね」
「・・・きちんとお払いする坊さんやら神主やらが、こんな
もの闇に流すかなあ」
「じゃ、そういうことで」
出て行こうとしたが、師匠に腕をつかまれた。
「イヤー!」
この部屋にいるだけで呪われそうだ。
雪山の山荘で名探偵10人と遭遇したら、こんな気分になる
だろうか。

439: 写真 2006/06/03(土) 12:25:56 ID:3rNkYIQb0
観念した俺は、部屋の隅に座った。
師匠は相変わらず眉間にしわを寄せて写真を眺めている。
ふと、目の前の写真の束の中に変な写真を見つけて手に取った。
変というか、変じゃないので、変なのだ。
普通の風景写真だった。
「師匠、これは?」
と見せると、
「ああ、これはこの木の根元に女の顔が・・・あれ? 
ないね。 消えてるね」
まあ、そんなこともあるよ。
って、言われても。
怖すぎるだろ!
俺は座りしょんべんをしそうになった。
そして部屋の隅でじっとすることし暫し。
ふいに師匠がいう。
「昔は真ん中で写真を撮られると魂が抜けるだとか、寿命が
縮むだとかいわれたんだけど、これはなぜかわかる?」

440: 写真 2006/06/03(土) 12:27:05 ID:3rNkYIQb0
「真ん中で写る人は先生だとか上司だとか、年配の人が多い
から、早く死に易いですよね。昔の写真を見ながら、ああこ
の人も死んだ、この人も死んだ、なんて話してると自然にそ
んなうわさが立ったんでしょうね」
「じゃあこんな写真はどう思う」
師匠はそう言うと、白黒の古い写真を出した。
どこかの庭先で着物を着た男性が3人並んで立っている写真
だ。
その真ん中の初老の男性の頭上のあたりに靄のようなものが
掛かり、それが顔のように見えた。
「これを見たら魂が抜けたと思うよね」
たしかに。本人が見たら生きた心地がしなかっただろう。
師匠は「魂消た?」とかそういうくだらないことを言いなが
ら写真を束のなかに戻す。
「魂が取られるとか、抜けるとかいう物騒なことを言ってる
のに、即死するわけじゃなくて、せいぜい寿命が縮むってい
うのも変な話だよね」
なるほど、そんな風に考えたことはなかった。

441: 写真 2006/06/03(土) 12:28:07 ID:3rNkYIQb0
「昔の人は、魂には量があってその一部が失われると考えて
いたんだろうか」
そういうことになりそうだ。
「じゃあ魂そのものの霊体が写真にとられたら、どういうこと
になる?」
「それは心霊写真のことですか? 身を切られるようにつらい
でしょうね」
と、くだらない冗談で返したがよく考えると、
「でもそれは所詮昔の人の思い込みが土台になってるから、
一般化できませんよ」
俺はしてやった、という顔をした。
すると師匠はこともなげに言う。
「その思い込みをしてる昔の人の霊だったら?」
うーむ。
「どういうことになるんでしょうか」
取り返しにくるんじゃない?
師匠は囁く様な声で言うのだ。
やめて欲しい。
そんな風に俺をいびりながらも、師匠はまた難しい顔をして
写真を睨みつけている。
部屋に入った時から同じ写真ばかり繰り返し見ていることに
気づいた俺は、地雷と知りつつ「なんですか」と言った。

442: 写真 2006/06/03(土) 12:28:44 ID:3rNkYIQb0
師匠は黙って2枚の写真を差し出した。
俺はビクビクしながら受け取る。
「うわ!」
と思わず声を上げて目を背けた。
ちらっと見ただけで、よくわからなかったが、猛烈にヤバイ
気がする。
「別々の場所で撮られた写真に同じものが写ってるんだよ。
えーっと、確か・・・」
師匠はリストのようなものをめくる。
「あった。右側が千葉の浦安でとられたネズミの国での家族
旅行写真。もうひとつが広島の福山でとられた街角の風景写真」
ちなみに写真に関する情報がついてたほうが、高い値がつく。
と付け加えた。
「もちろん撮った人も別々。4年前と6年前。たまたま同じ
業者に流れただけで、背後に共通項はない。と思う」
俺は興味に駆られて、薄目を開けようとした。

443: 写真 2006/06/03(土) 12:29:54 ID:3rNkYIQb0
その時、師匠が
「待った」と言って俺を制し、窓の方へ近づいていった。
「夜になった」
また難しい顔をして言う。
なにを言い出したのかとドキドキして、写真を伏せた。
師匠が窓のカーテンをずらすと、外は日が完全に暮れていた。
確か来たのは5時くらいだから、そろそろ暗くなって来てもお
かしくないよなあ。
と思いながら、腕時計を見る。
短針は9を指していた。
え?! そんなに経ってんの?
と驚いていると、師匠が唇を噛んで「まずいなぁ。実にまずい」と呟き、
「何時くらいだと思ってた?」
と聞いてくる。
「6時半くらいかな、と」
確かに時間が過ぎるのが早すぎる気もするが、それだけ写真を
見るのに集中していただけとも思える。
「僕は正午だ」

444: 写真 2006/06/03(土) 12:30:45 ID:3rNkYIQb0
それはありえないだろ!
しかし師匠の目は笑っていない。
何かに体内時計を狂わされたとでも言うのだろうか。
師匠は、「今日はここまでにしようか」と言って肩を竦めた。
俺もなんだかよくわからないけれど、自分の家に帰りたかっ
た。
部屋中に散らばった写真を片付けようとして、さっき伏せた
2枚の写真の前で手が止まる。
「同じものが写っている」と言った師匠の言葉も気になるが、
「見ないほうがいい」という第6感が働く。
その時、師匠が妙に嬉しそうな顔をして床の上を見回した。
「人間には無意識下の自己防衛本能ってヤツがあるんだなあ、
と実感するよ」
なにを言い出したんだろう。
「動物園ってなにするところ?」
話が飛びすぎで意味がわからない。
「動物を見に行くところだと思いますけど」
「たしかに、僕らはお金を払って動物園に行き、それぞれの
檻の前に立って中の動物を見て歩く。しかし動物からすると
どうだ。檻の中にいるだけで、色とりどりの服を着たサルた
ちが、頼みもしないのに次々と姿を見せに来る」

445: 写真  ラスト 2006/06/03(土) 12:31:58 ID:3rNkYIQb0
動物を心霊写真に置き換えればいいのだろうか。
なんとなく言いたいことが分かってきた。
床を見ながら師匠は独り言のように呟いた。
「闇を覗く者は、等しく闇に覗かれることを畏れなくてはな
らない」
「ニーチェですか?」
「いや、僕だ」
師匠はどこまで本気かわからない顔で、床に散らばった写真を
指差した。
「どうして伏せたんだ」
それを聞いたとき、心臓がドクンと鳴った。
さっきの2枚だけではない。無数の写真の中で、何枚かの写真
が伏せられている。
全く意識はしてなかった。全く意識はしてなかったのだ。
写真はすべて表向いていたはずなのに。
僕が伏せたんだろうか。
寒気がして全身が震えた。
「怪物を倒そうとするものは、自らが怪物になることを畏れな
くてはならない」
やっぱりニーチェじゃないですか。
俺はそう言う気力もなく、怪物を倒すどころか写真をめくる
勇気もなかった。

446: 葬祭 2006/06/03(土) 12:33:26 ID:3rNkYIQb0
【葬祭】

大学2年の夏休みに、知り合いの田舎へついて行った。
ぜひ一緒に来い、というのでそうしたのだが、電車とバスを乗り
継いで8時間もかかったのにはうんざりした。
知り合いというのは大学で出会ったオカルト好きの先輩で、俺は
師匠と呼んで畏敬したり小馬鹿にしたりしていた。
彼がニヤニヤしながら「来い」というのでは行かないわけにはいか
ない。
結局怖いものが見たいのだった。

県境の山の中にある小さな村で、標高が高く夏だというのに肌寒さ
すら感じる。
垣根に囲まれた平屋の家につくと、おばさんが出てきて「親戚だ」
と紹介された。
師匠はニコニコしていたが、その家の人たちからは妙にギクシャク
したものを感じて居心地が悪かった。
あてがわれた一室に荷物を降ろすと俺は師匠にそのあたりのことを
さりげなく聞いてみた。
すると彼は遠い親戚だから・・・というようなことを言っていたが
さらに問い詰めると白状した。
ほんとに遠かった。尻の座りが悪くなるほど。
遠い親戚でも、小さな子供が夏休みにやって来ると言えば田舎の
人は喜ぶのではないだろうか。
しかし、かつての子供はすでに大学生である。
ほとんど連絡も途絶えていた親戚の大人が友達をつれてやって来て、
泊めてくれというのでは向こうも気味が悪いだろう。
もちろん遠い血縁など、ここに居座るためのきっかけに過ぎない。
ようするに怖いものが見たいだけなのだった。

447: 葬祭 2006/06/03(土) 12:35:11 ID:3rNkYIQb0
非常に、非常に、肩身の狭い思いをしながら俺はその家での生活
を送っていた。
家にいてもすることがないので、たいてい近くの沢に行ったり山道を
散策したりしてとにかく時間をつぶした。
師匠はというと、持って来ていた荷物の中の大学ノートとにらめっこ
していたかと思うと、ふらっと出て行って近所の家をいきなり訪ねて
はその家のお年寄りたちと何事か話し込んでいたりした。
俺は師匠のやり口を承知していたから、何も言わずただ待っていた。

二人いるその家の子供と、まだ一言も会話をしてないことを自嘲気味
に考えていた6日目の夜。
ようやく師匠が口を開いた。
「わかったわかった。ほんとうるさいなあ、もう教えるって」
6畳間の部屋の襖を閉めて、布団の上に胡坐をかくと声をひそめた。
「墓地埋葬法を知っているか」という。
ようするに土葬や鳥葬、風葬など土着の葬祭から、政府が管理する
火葬へとシフトさせるための法律だ、と師匠はいった。
「人の死を、習俗からとりあげたんだ」
この数日山をうろうろして墓がわりと新しいものばかりなのに気が
ついたか?と問われた。
気がつかなかった。確かに墓地は見はしたが・・・
「このあたりの集落はかつて一風変わった葬祭が行われていたらしい」
もちろん知っていてやって来たのだろう。
その上で何かを確認しに来たのだ。
ドキドキした。聞いたら後戻りできなくなる気がして。

448: 葬祭 2006/06/03(土) 12:36:28 ID:3rNkYIQb0
家は寝静まっている。
豆電球のかすかな明かりの中で師匠がいった。
「死人が出ると荼毘に付して、その灰を畑に撒いたらしい。酸化
 した土を中和させる知恵だね、ところが変なのはそのこと自体
 じゃない。江戸中期までは死者を埋葬する習慣自体が一般的じゃ
 なかった。死体は『捨てる』ものだったんだよ」
寒さが増したようだ。
夏なのに。
「この集落で死体を灰にして畑あっさりに撒けたのには、さらに理由
 がある。死体をその人の本体、魂の座だと認めていなかったんだ。
 本体はちゃんと弔っている。死体から抜き出して」
抜き出す、という単語の意味が一瞬分からなかった。
「この集落では葬儀組みのような制度はなく、葬祭を取り仕切るのは
 代々伝わる呪術師、シャーマンの家だったらしい。キと呼ばれてい
 たみたいだ。
 死人が出ると彼らは死体を預かり、やがて『本体』を抜かれた死体
 が返され、親族はそれを燃やして自分たちの畑に撒く。
 抜かれた『本体』は木箱に入れられて、キが管理する石の下にまと
 めて埋められた。いわばこれが墓石で、祖霊に対する弔意や穢れ払
 いはこの石に向けられたわけ。
 彼らはこの『本体』のことをオンミと呼んでいたみたい。年寄りが
 この言葉を口にしたがらないから聞き出すのが大変だった」

師匠がこんな山の上へ来た理由がわかった。
その木箱の中身を見たいのだ。
そういう人だった。

449: 葬祭 2006/06/03(土) 12:37:30 ID:3rNkYIQb0
「この習慣は山を少し下った隣の集落にはなかった。近くに浄土宗の
 寺があり、その檀徒だったからだ。寺が出来る前はとなったらわか
 らないけど、どうやらこの集落単独でひっそりと続いてきた習慣
 みたいだ。その習慣も墓地埋葬法に先駆けて明治期に終わっている。
 だからこの集落の墓はすべて明治以降のものだし、ほとんどは大正
 昭和に入ってからのものじゃないかな」

その日はそのまま寝た。
その夜、生きたまま木棺に入れられる夢を見た。
次の日の朝その家の家族と飯を食っていると、そろそろ帰らないか
というようなことを暗にいわれた。
帰らないんですよ、箱の中を見るまでは。と心の中で思いながら
味のしない飯をかき込んだ。
その日はなんだか薄気味が悪くて山には行かなかった。
近くの川でひとり日がな一日ぼうっとしていた。
『僕はその木箱の中に何が入っているのか、そのことよりもこの集落
 の昔の人々が人間の本体をいったい何だと考えていたのか、それが
 知りたい』
俺は知りたくない。でも想像はつく。
あとはどこの臓器かという違いだけだ。
俺は腹の辺りを押さえたまま川原の石に腰掛けて水をはねた。
村に侵入した異物を子供たちが遠くから見ていた。
あの子たちはそんな習慣があったことも知らないだろう。

その夜、丑三つ時に師匠が声を顰め、「行くぞ」といった。

450: 葬祭 2006/06/03(土) 12:39:08 ID:3rNkYIQb0
川を越えて暗闇の中を進んだ。向かった先は寺だった。
「例の浄土宗の寺だよ。どう攻勢をかけたのか知らないが、明治期に
 くだんの怪しげな土着信仰を廃して、壇徒に加えることに成功した
 んだ。だから今はあのあたりはみんな仏式」
息をひそめて山門をくぐった。
帰りたかった。
「そのあと、葬祭をとりしきっていたキの一族は血筋も絶えて今は
 残っていない。ということになってるけど、恐らく迫害があった
 だろうね。というわけでくだんの木箱だけど、どうも処分されて
 はいないようだ。宗旨の違う埋葬物だけどあっさりと廃棄するほど
 には浄土宗は心が狭くなかった。ただそのままにもしておけない
 ので当時の住職が引き取り、寺の地下の蔵にとりあえず置いていた
 ようだが、どうするか決まらないまま代が変わりいつのまにやら
 文字どおり死蔵されてしまって今に至る、というわけ」
よくも調べたものだと思った。
地所に明かりがともっていないことを確認しながら、小さなペンライト
でそろそろと進んだ。
小さな本堂の黒々とした影を横目で見ながら、俺は心臓がバクバク
していた。
どう考えてもまともな方法で木箱を見に来た感じじゃない。
「僕の専攻は仏教美術だから、そのあたりから攻めてここの住職と
 仲良くなって鍵を借りたんだ」
そんなワケない。寝静まってから泥棒のようにやって来る理由がない。
そこだ。と師匠がいった。
本堂のそばに厠のような屋根があり、下に鉄の錠前がついた扉があった。
「伏蔵だよ」

451: 葬祭 2006/06/03(土) 12:40:40 ID:3rNkYIQb0
どうも木箱の中身については当時から庶民は知らなかったらしい。
知ることは禁忌だったようだ。
そこが奇妙だ。
と師匠はいう。
その人をその人たらしめるインテグラルな部分があるとして、それ
が何なのか知りもせずに手を合わせてまた畏れるというのは。
やはり変な気がする。
それが何なのか知っているとしたら、それを「抜いた」というシャー
マンと、あるいは木箱を石の下から掘り出して伏蔵に収めた当時の
住職もか・・・
師匠がごそごそと扉をいじり、音を立てないように開けた。
饐えた匂いがする地下への階段を二人で静かに降りていった。
降りていくときに階段がいつまでも尽きない感覚に襲われた。
実際は地下一階分なのだろうが、もっと長く果てしなく降りたような
気がした。
もともとは本山から頂戴したなけなしの経典を納めていたようだが、
今はその主人を変えている、と師匠は言った。
異教の穢れを納めているんだよ。というささやくような声に一瞬気が
遠くなった。
高山に近い土地柄に加え、真夜中の地下室である。
まるで冬の寒さだった。
俺は薄着の肩を抱きながら、師匠のあとにビクビクしながら続いた。
ペンライトでは暗すぎてよく分からないが、思ったより奥行きがある。
壁の両脇に棚が何段にもあり、主に書物や仏具が並べられていた。
「それ」は一番奥にあった。

452: 葬祭 2006/06/03(土) 12:41:38 ID:3rNkYIQb0
ひひひ
という声がどこからともなく聞こえた。
まさか、と思ったがやはり師匠の口から出たのだろうか。
厚手の布と青いシートで2重になっている小山が奥の壁際にある。
やっぱりやめよう、と師匠の袖をつかんだつもりだったが、なぜか
手は空を切った。手は肩に乗ったまま動いていなかった。
師匠はゆっくりと近づき、布とシートをめくりあげた。
木箱が出てきた。
大きい。
正直言って、小さな木箱から小さな肝臓の干物のようなものが出て
くることを想像していた。
しかしここにある箱は少なかった。三十はないだろう。
その分一つ一つが抱えなければならないほど大きい。
嫌な予感がした。
木箱の腐食が進んでいるようだった。石の下に埋められていたのだ
から、掘り出した時に箱のていを成していないものは処分してしま
ったのかも知れない。
師匠がその内の一つを手にとってライトをかざした。
それを見た瞬間、明らかに今までと違う鳥肌が立った。
ぞんざいな置かれ方をしていたのに、木箱は全面に墨書きの経文で
びっしりと覆われていたからだ。
如是我聞一時佛在舍衞國祇樹給孤獨園與大比丘衆千二百五十人倶・・・
師匠がそれを読んでいる。
やめてくれ。
起きてしまう。
そう思った。

453: 葬祭 2006/06/03(土) 12:42:55 ID:3rNkYIQb0
ペンライトの微かな明かりの下で、師匠が嬉しそうな顔をして指に
唾をつけ、箱の口の経文をこすり落とした。
他に封印はない。
ゆっくりと蓋をあげた。
俺は怖いというか心臓のあたりが冷たくなって、そっちを見られな
かった。
「う」
というくぐもった音がして、思わず振り向くと師匠が箱を覗き込ん
だまま口をおさえていた。
俺は気がつくと出口へ駆け出していた。
明かりがないので何度も転んだ。
それでももう、そこに居たくなかった。
階段を這い登りわずかな月明かりの下に出ると、山門のあたりまで
戻りそこでうずくまっていた。
どれくらい経っただろうか。
師匠が傍らに立っていて青白い顔で「帰ろう」と言った。
結局次の日俺たちは1週間お世話になった家を辞した。
またいらしてねとは言われなかった。
もう来ない。来るわけがない。
帰りの電車でも俺は聞かなかった。木箱の中身のことを。
この土地にいる間は聞いてはいけない、そんな気がした。

夏休みも終わりかけたある日に俺は奇形の人を立て続けに見た。
そのことを師匠に話した折りに、奇形からの連想だろうか、そういえ
ばあの木箱は・・・と口走ってしまった。

454: 葬祭 2006/06/03(土) 12:44:13 ID:3rNkYIQb0
ああ、あれね。
あっさり師匠はいった。
「木箱で埋められてたはずだからまずないだろう、と思ってたものが
 出てきたのには、さすがにキタよ」
胡坐をかいて眉間に皺をよせている。
俺は心の準備が出来てなかったが、かまわず師匠は続けた。
「屍蝋化した嬰児がくずれかけたもの、それが中身。かつて埋めら
 れていたところを見たけど、泥地でもないしさらに木箱に入って
 いたものが屍蝋化してるとは思わなかった。もっとも屍蝋化して
 いたのは26体のうち3体だったけど」
嬰児?
俺は混乱した。
グロテスクな答えだった。そのものではなく、話の筋がだ。
死人の体から抜き出したもののはずだったから。
「もちもん産死した妊婦限定の葬祭じゃない。あの土地の葬儀の
 すべてがそうなっていたはずなんだ。これについては僕もはっき
 りした答えが出せない。ただ間引きと姥捨てが同時に行われて
 いたのではないか、という推測は出来る」
間引きも姥捨ても今の日本にはない。想像もつかないほど貧しい時代
の遺物だ。
「死体から抜き出した、というのはウソでこっそり間引きたい赤ん坊
 を家族が差し出していたと・・・?」
じゃあやはり、当時の土地の庶民も知っていたはずだ。
しかし言えないだろう。木箱の中身を知らない、という形式をとる
こと自体がこの葬祭を行う意味そのものだからだ。

455: 葬祭  ラスト 2006/06/03(土) 12:45:29 ID:3rNkYIQb0
ところが、違う違うとばかりに師匠は首を振った。
「順序が違う。あの箱の中にはすべて生まれたばかりの赤ん坊が入っ
 ていた。年寄りが死んだときに、都合よく望まれない赤子が生まれ
 て来るってのは変だと思わないか。逆なんだよ。望まれない赤子が
 生まれて来たから年寄りが死んだんだよ」
婉曲な表現をしていたが、ようするに積極的な姥捨てなのだった。
嫌な感じだ。やはりグロテスクだった。
「この二つの葬儀を同時に行なわなければならない理由はよくわか
 らない。ただ来し方の口を減らすからには行く末の口も減らさなく
 てはならない、そんな道理があそこにはあったような気がする」
どうして死体となった年寄りの体から、それが出てきたような形を
とるのか、それはわからない。
ただただ深い土着の習俗の闇を覗いている気がした。
「そうそう、その葬祭をつかさどっていたキの一族だけどね、まるで
 完全に血筋が絶えてしまったような言い方をしちゃったけど、そう
 じゃないんだ。最後の当主が死んだあと、その娘の一人が集落の
 一戸に嫁いでいる」
そういう師匠は、今までに何度もみせた、『人間の闇』に触れた時の
ような得体の知れない喜びを顔に浮かべた。
「それがあの僕らが逗留したあの家だよ。つまり・・・」

ぼくのなかにも

そう言うように師匠は自分の胸を指差した。

456: 2006/06/03(土) 12:46:17 ID:3rNkYIQb0
【坂】

大学1回生の夏。
『四次元坂』という地元ではわりと有名な心霊スポットに挑んだ。
曰く、夜にその坂でギアをニュートラルに入れると車が坂道を登っ
て行くというのだ。
その噂を聞いて僕は俄然興奮した。
いたのやら、いなかったのやら分からないようなお化けスポットと
は違う。車が動くというのだから、なんだか凄いことのような気が
するのだ。
とはいえ一人では怖いので、二人の先輩を誘った。

夜の1時。
僕は人影のない最寄の駅の前でぼーっと立っていた。
隣には僕が師匠と仰ぐオカルトマニアの変人。やはりぼーっと立っ
ている。
いつもなら僕がそんな話を持って行くと、即断即決で「じゃあ行こ
う」ということになる人なのだが、その時は肝心の車がなかった。
師匠の愛車のボロ軽四は原因不明の煙が出たとかで、修理に出して
いたのだった。
僕は免許さえ持っていない。
そこで車を出せる人をもう一人誘ったのだが、ある意味で四次元坂
よりも楽しみな部分がそこにあった。

457: 2006/06/03(土) 12:47:07 ID:3rNkYIQb0
闇を裂いてブルーのインプレッサが駅前に止まる。
颯爽と降りてきた人はこちらに手を振りかけて、すぐに降ろした。
「なんでこいつがいるんだ」
京介さんという、僕のオカルト系のネット仲間だ。
「こっちの台詞だ」
師匠がやりかえして、すぐに険悪な空気に包まれる。
まあまあ、と取り成す僕に師匠が「どうしてお前はいつも、俺とこ
いつが一緒になるように仕向けるんだ」というようなことを言った。
面白いからですよ。
とはなかなか言えないので、かわりに、まあまあ、と言った。

師匠と京介さんは仲が悪い。強烈に悪い。
それは初対面のときに、京介さんが師匠に向かって、
「なんだこのインチキ野郎は」
と言ったことに端を発する。
お互い、多少系統は違えどオカルトフリークとしては人後に落ちない
自負があるらしい。
いわば磁石のS極とS極だ。反発するのは仕方のないことかも知れない。

458: 2006/06/03(土) 12:48:19 ID:3rNkYIQb0
「まあまあ、四次元坂の途中には同じくらいの激ヤバスポットもあ
 りますし、とりあえず楽しんで行きましょう」
なんとか二人をなだめすかして車に押し込める。
当然師匠は後部座席で、僕は助手席だった。
「狭い」
師匠の一言に京介さんが、黙れと言う。
「くさい」
と言ったときは、車を停めてあわや乱闘というところまで行った。
やっぱりセットで呼んでよかった。最高だ。この二人は。
そんな気分をぶっこわすようなものがいきなり視界に入ってきた。
対向車もいない真夜中の山中で、川沿いの道路の端に巨大な地蔵が浮か
び上がったのだった。
比較物のない夜のためか、異常に大きく見える。体感で5メートル。
「あれが見返り地蔵ですよ」
車で通り過ぎてから振り返ると、側面のはずの地蔵がこっちを向いてい
て、それと目が合うと必ず事故に遭うという曰くがある。
二人が喜びそうな話だ。
喜びそうな話なのに、二人とも何もいわず、振り返りもしなかった。
ゾクゾクする。
怖さのような、嬉しさのような、不思議な笑いがこみ上げてきた。
振り返れないから、僕のイメージの中でだけ道端の地蔵は遠ざかり、
曲がりくねる闇の中に消えていった。
もちろんそのイメージの中では、こちらを向いていた。無表情に。

459: 2006/06/03(土) 12:48:48 ID:3rNkYIQb0
師匠も京介さんも押し黙ったまま、車は夜道を進んだ。
イライラしたように京介さんはハンドルを指で叩く。
やがて道が二手に分かれる場所に出た。
「左です」
という僕の声に、ウインカーも出さずにハンドルが切られる。
左に折れると、すぐに上り坂が始まった。
「どこ」
「ええと、たしかもうこの辺りからそのはずですが」
あくまで噂では。
京介さんは車を停止させると、ギアをニュートラルに入れた。
・・・
ドキドキするのも一瞬。じりじりと車は後退した。
京介さんはため息をついてブレーキを踏んだ。
「あー、ちょっと楽しみだったんだけどなぁ」
僕も残念だ。
たしかに本気でそんな坂があるなんて信じていたかと言われれば、
否だが。
すると師匠が「ライト消して」と言いながら、車を降りた。
手には懐中電灯。
3人とも車を降りると、周囲になんの明かりもない山道に突っ立っ
た。
「まあ多分こういうことだな」
と師匠はぼそぼそと話しはじめた。

460: 2006/06/03(土) 12:49:25 ID:3rNkYIQb0
この山中の坂道はゆるやかな上り坂になっているわけだが、道の先
を見ると路側帯の白線が微妙に曲がり、おそらく幅が途中から変わ
っているようだ。それが遠近感を狂わせて上り坂を下り坂に錯覚さ
せるのではないか。
周囲に傾斜を示すような比較物が少ない闇夜に、かすかな明かりに
照らされて浮かび上がった白線だけを見ていると、そんな感覚に陥
るのだろう。
師匠の言葉を聞くと、不思議なことにさっきまで上り坂だった道が
下向きの傾斜へと変化していくような気がするのだった。
「つまり、ハイビームでここを登ろうとする無粋なことをしなけれ
 ば、もう少し楽しめたんじゃない?」
師匠の挑発に、京介さんが鼻で笑う。
「あっそ。じゃあここで置いていくから、存分に錯覚を楽しんだら」
「言うねえ。四次元坂なんて信じちゃうかわいいオトナが」
虫の声が遠くから聞こえるだけの静かな道に、二人の罵りあう声だけ
が響く。
しかし、京介さんの次の言葉でその情景が一変した。
「どうでもいいけど、おまえ、後ろ振り向かないほうがいいよ。
 地蔵が来てるから」

461: 坂  ラスト 2006/06/03(土) 12:51:16 ID:3rNkYIQb0
零下100度の水をいきなり心臓に浴びせられたようなショックに襲
われた。
京介さんの子供じみた脅かしにではない。
その脅しを聞いた瞬間に、師匠が凄まじい形相で自分の背後を振り返っ
たからだ。
驚愕でも、恐怖でもない、なにかひどく温度の低い感情が張り付いた
ような表情で。
しかしもちろん、そこには闇が広がっているだけだった。
その様子を見た京介さんも息をのんで、用意していた嘲笑も固まった。
おいおい。笑うところだろ。騙された人を笑うところだろ。
そう思いながらも、夜気が針のように痛い。
「すまん」
と京介さんが謝り、なんとも後味悪く3人は車に戻った。
師匠は後部座席に沈み込み、一言も口を利かなかった。
そして僕らはくだんの地蔵の前を通ることもなく、県道を大回りして
帰途に着いたのだった。

師匠を駅前で降ろして、僕を送り届ける時に京介さんは頭を掻きなが
ら、「どうして謝っちまったんだ」と吐き捨てて、とんでもないスピ
ードでインプレッサを吹っ飛ばし、僕はその日一番の恐怖を味わった
のだった。

463: 本当にあった怖い名無し 2006/06/03(土) 12:54:20 ID:1SAOaOSH0
乙カレです。
楽しめた~

465: 本当にあった怖い名無し 2006/06/03(土) 13:06:56 ID:MpWahixa0
同じく
楽しかったっすよ
545: 施餓鬼1/4 2006/06/04(日) 03:21:22 ID:vECE7QZ50
【施餓鬼】

その年の瀬戸内は大変暖かくて3月にはもう桜が咲き始めていた
後輩曰く、この時期に既に桜が満開の穴場があるとか抜かすので
お花見をする事となった。
ちょっと山手に上がった所だが、見事な枝垂れ桜が満開だった。
席は大いに盛り上がり、私は下戸のくせに大いに飲み大いに食べた。
酔っ払ってて覚えてないが、いろいろ変な事口走ったらしい。
挙句、上半身裸で寝てしまったらしい、覚えてないが。
例年より暖かいとはいえ3月、案の定風邪を引いてしまった。
滅多に風邪引かない分、いざ引くと往々にしてロクな事が無い。
そんな感じの話。

長文4つ スレ借ります。

546: 施餓鬼2/4 2006/06/04(日) 03:23:24 ID:vECE7QZ50
熱で頭がボーッとする。
食欲なんて無いハズなのに無性に米の飯を食べたくなった。
始めはお粥など炊いたりしていたが、面倒になって
炊いたご飯を炊飯器から直接食べ始め..
終いに「もう炊くのも面倒だ」と、私は生の米をそのままバリバリ食いだした。
自分のやってる事が理解できなかった。
いくら食べても胃が空っぽな気がした。
この辺から意識が飛び始め自分の行動が曖昧になるのだが――
たしか、レトルトカレーのルーを袋ごと啜ったり
乾麺を生で齧ったりしてたようだ。
まったく自分のやってる事が理解できない。
普段から2週間分の食料は置いてあるが、それをおよそ4日で食い尽くしてしまった。
自慢じゃないが私の体重は56kg、普通はこんなに食えるハズはない。
食っても食ってもお腹は減り続ける。

「ひもじい」
    空腹と倦怠感が全身を襲う
空っぽの冷蔵庫の前で茫然自失となる。買出しに行こうにも体力の限界だった。
ふと脳裏に「死」の1文字が浮ぶ。 
こんなんで死んだら恥だな―― と考えてた矢先、電話が鳴った。
「悪質な風邪なので3日くらい休む」と研究室には言っておいたが
例の友人からだった。『もしもしー♪』1オクターブ高い声。
『治った?大丈夫?お見舞い行こうか?』ありきたりな事を聞いてくる。
私はもはや「あー」だの「うー」だのしか返事できなかった。
ただ事ではないと思ったのだろう『あー 待ってち、今から行くけぇ』と言って切れる。
(助かった..かな。)
今考えると死にそうになるもっと前に初めから電話で助け呼べば良かったのだが、
脳に栄養が回ってなかったのだ。仕方がない。

547: 施餓鬼3/4 2006/06/04(日) 03:25:30 ID:vECE7QZ50
数分後、外で友人のバイクの爆音が聞こえる。
それまでは水を飲んで仰向けになって凌いでいた。
ドアは―― は3日前から開けっ放しだった。
台所まで入ってきた友人は私を一瞥して噴き出した。『ブッ』って
二言目には『うわぁ 初めて見た』と嬉しげに言い放った。

彼女曰く『餓鬼の類』だという。私の身体にまとわり憑いて腹部をガジガジ齧ってたそうだ。
電話の向こうで私の声じゃない「ひもじい ひもじい」って声が聞こえて、
ヤバいなと思ってあわてて来たらしい。

すぐに友人は誰かに電話をし始めた。 『あ、もしもし―― 木村の婆っちゃー?』
『んー 元気。あー この間はありがと――』
死にかけの人間放置して世間話か?
『んー でね、たぶん スイゴやと思う。あ、ウチやなくて友達。』
『いや、わからん、後で聞く――』『――あ、炭?分かった ありがとうー』
電話を切った友人はガスコンロに向かって何かし始めた。
料理でも作ってくれるのだろうか、凄くコゲ臭い。
『コレでいいかな』
友人がグラスに注いで持ってきたのは 
  
    煮え湯だった。

しかも何か灰色い粉末がプカプカ浮いている。
コレを『目ぇ閉じて鼻摘んで飲み干せ』と言う。
一口飲むと熱さで舌が焼かれる、炭の苦さと塩辛さが口内に広がる。
「何コレ?」『塩水。』「は?」
『良いけぇ飲みぃ。ヘソから出るけん』
こんなモン飲んでたまるかと抵抗したが、鼻を摘まれ大口開けさせられ流し込まれた。

548: 施餓鬼4/4 2006/06/04(日) 03:27:27 ID:vECE7QZ50
暫くして身体から倦怠感が抜け楽になる。友人が『立てる?』と聞いてきた。
どうやらもう大丈夫のようだ。立つと同時に
「ぐ~~~」 と盛大に腹の音が鳴る。 友人は苦笑しながら
『何か作るわ』と米びつの底に僅かに残った米でお粥を作ってくれたが、
結局 なんにも味はしなかった。煮え湯で舌が焼けていたから。

大事を取って病院に行ったところ、栄養失調との事だった。あれだけ食ったのにだ
点滴受けながら
友人に聞かれた『何か思い当たるフシない?』 「~~~で花見した。」『3月に?』
『○○寺の下やろ、あそこは7月に施餓鬼する所や』
(「施餓鬼」= 地獄の餓鬼の為に施しをしてやる鎮魂際みたいなモノ)
『飲み食いした?』「たらふく食って裸で寝た。」 『バカか』
『知らん?【施餓鬼の前にお祭りすっと餓鬼が憑く】って』「知らん、初めて聞いた。」
『あー、 ウチの地元だけなんかな? 
  まぁ、お前を供物だと思ったんだろうサね。腹に食い物の詰まった』

...。

「ねぇ、さっき俺に何飲ましたん?」
『塩水に注連縄(しめなわ)焼いた灰ぶち込んだモノ』
何だそりゃ。
『ウチの地元では割とポピュラーなんだけど..』「知らん、初めて飲んだ。」
まぁいいや.. 
私が「今度ばかりは本当に死を覚悟したよ」と言うと
友人はうなずいて『とっておきの良い名言がある』と言った。

『【死を恐れるな 死はいつもそばに居る 
  恐れを見せた時 それは光よりも速く飛びかかって来るだろう
  恐れなければ、それはただ 優しく見守っているだけだ】って。』

「..それ、聞いたことあるぞ。アニメのセリフじゃねぇか」

575: 本当にあった怖い名無し 2006/06/04(日) 12:19:07 ID:TeQieflw0
【パソコンのモニターの女】

結構昔のことだけど、洒落怖スレにはまってて
大体、寝る前30分くらいにチェックするようにしてた。

ちょうど、猿夢全盛期で夢見るのが凄い怖かったから、強い酒を飲んで
そのまま熟睡するようにしてたんだよね。だから、ドライジンとかスミノフなんとかを友達に貰っては
オカ板見ながらストレートで飲んでた。オカルト板のoffとかも結構参加したな。

ある夏の夜、あんまりに暑いからクーラーつけて、またオカルト板巡回してた。
夏の深夜だけあって、結構書き込みもあったし、時間帯が時間帯だけになんか真に迫ったのが多かった。
こりゃ、酒でも飲まなきゃだめだな、と思ってコップに焼酎?か何か注いでふと画面を見たら

青白い顔した女がこっち見てる

青白い、としか言いようの無い生気の無い顔に、洒落怖スレの書き込みがバァァァーっと浮かび上がってる。
俺は男だから、もちろん自分の顔じゃない。どうみても女だし、女じゃないとしても長い黒髪でニヘェェっと笑った不気味な顔だった。

576: 本当にあった怖い名無し 2006/06/04(日) 12:20:50 ID:TeQieflw0
何を考えたかそのときの俺は、意味のわからないことを叫びながらパソコンのモニターを殴って机の下に落とした。
その拍子で電源が落ちたはずなのに、スピーカーからは

ピンポーン

っていう更新を知らせる音がし続けてる。女の顔は消えたのに。
もうどうしようもなくなって、何も持たないで部屋からでた。近くのコンビニまでいって、そのあとは友人の家に転がり込んだ。
翌朝、部屋に帰ってみるとパソコンは転げ落ち電源ケーブルは切れ、と酷い状況だった。

もう、今でもいい思い出だけど、お前らも気をつけろ。
オカルト板は、ただの掲示板と違って、そういう話をするところなんだ。
あんときのことは、酔った俺の幻覚だったのかな、と思ってたが
その数日後、同じようなこと言ってる書き込みがあって、愕然としたね。
やっぱり、オカルト板を深夜に見ると、何か見てしまうやつってのはいるらしい。偶然かもしれないがね。

また夏がくるけど、あの夏の夜以来、俺はもう夜中にオカルト板は見ていない。
ただ、パソコンのモニターにうきでるあの女を見た、ってやつはまたこのスレに書き込んで欲しい。
それが、オカルト板というものだから。

579: 本当にあった怖い名無し 2006/06/04(日) 12:35:46 ID:v61btZFP0
>>576
あーあるある俺も1回だけ。悲鳴とともに画面にものすごい形相の二つの眼が写ったよ

704: 1/2 2006/06/05(月) 13:46:03 ID:oj5uINTp0
【憧れの靴】

オレが高校生のころ、どうしても欲しい靴があったんだけど、
値段が高くて親にもねだれずに悶々とすごしていたわけだ。
もちろん自分でバイトして買えばいいのにそんなことも考え
つかないで親父に文句ばっかり言ってたっけ。

で、ある日近所に中古品を売る店がオープンしたんで学校の
帰りに友達と寄ってみたら、そこにオレがが欲しくてたまらない
靴が格安で売ってたんだよ!

衝撃だったね。これならちょっと働けば買えるってな感じだった
からその日のうちに急いでバイト決めて、必死になって働いて
給料貰ってすぐにその憧れの靴を買った。・・・までは良かったんだ
けど買って早速履いた瞬間に背中にいやーな汗かいたんだわ。


なんていうんだろ、なんか違うんだよ普通の靴と。
中古の高級靴とはいえ保証ついてるし、偽物じゃないし、
水虫とかそういう類でもない。なにかはいた瞬間に違和感があって
その違和感がずっとぬぐえないんだ。

靴が変なのか?…いや、うん十万する靴だし、俺の足が極端に
変だってこともない。サイズもぴったりだし。最悪、捨てなけ
りゃいけないかも、なんてオレは色々考えたね

705: 2/2 2006/06/05(月) 13:47:00 ID:oj5uINTp0
その日はデートだったし、オシャレして彼女とウッハウハの
予定だったかオレはそのまま出かけたんだが、歩きにくいんだよ。
ギクシャクする。変だ。

何だこれ、こんなものなのか?なんて思いながら俺は何故か
オカルト的なものを歩きながら想像してたね。足を無数の小さな
手がまとわりついているのを。で、結構ビビりながらデート場所
につくと、霊感強い彼女がオレを見て妙な顔するんだよ。

その顔見てオレは確信したね。なんであんなに安く売ってたのか。
何か事件があったに違いないんだってね。

オレはもう本当にビビりながら、でも聞かずにはいられなかった。
結果なんて聞きたくないのに、だ。

「なぁ、オレ、どう見える?」

彼女は重々しく口を開いた。




「…なんでアンタ靴左右逆に履いてるの?」


実話END

706: 1/3 2006/06/05(月) 14:17:22 ID:GbXSomeD0
【記憶喪失】

心霊的なものじゃないけど、俺の体験談を話しますね。

俺は中2の時にチャリで事故って、記憶喪失になったことがあります。
まぁだいたいこういうケースでは数日で記憶は戻るらしく、俺もそうでした。
(マンガなどに出てくるような一生戻らないであろう記憶喪失ってのはなかなか無いらしい)
このときのことをよく覚えています。
気が付くと、病院のベッドの上。上体も起こしていました。
「目覚める」のではなくて、ぼうっとしてた時にはっと気づく感じです。
で、もう速攻でナゾ、ナゾ、ナゾ。なんっっにもわからない。
最初に出た言葉は「ハァ!?」でした。
自分が誰か?目の前のオバサンは誰か?
そんで、もんんんのすごい恐怖が襲ってくるんです。

707: 2/3 2006/06/05(月) 14:18:21 ID:GbXSomeD0
ナニが怖いって、母親の顔がわからないとかそれよりも、自分が誰だかわからないこと。
しかしこの恐怖も台風みたいにすぐ去り、次は面白くて仕方がなくなってきたんです。
「おしまいだ。俺はおしまい。」と叫びながら、ゲラゲラゲラゲラ笑いました。
名前を忘れちまうだなんて、もうおかしくておかしくて。
目の前で母親がおろおろしながら泣いているのを、まるで水族館の中で
分厚いガラス越しに魚を眺めているような感覚で見ていました。
あまつさえ「この人なに泣いちゃってるの?ばっかでー」とおかしくてまた笑いました。
しかし妹が反対側でビャーーッと泣き始めたのに気が付いた俺は、
なぜかどうしようもなく悲しい気持ちになって、「ごめんなさぁあああい」と涙と鼻水を
それこそマンガのようにボタボタジャアジャアと垂れ流しながら号泣しました。

708: 3/3 2006/06/05(月) 14:19:22 ID:GbXSomeD0
そんなカンジで超カオスな俺の病室に、医者と看護婦がドヤドヤっと入ってきて
俺を取り押さえて目に光を当て、医者がこう言ったんですよ
「君の名前は○○だ、○○××という名前だ」
それを聞いた俺はウソみたいに眠気に襲われて、そのまま眠ってしまいました。
そして、次の日の昼に目覚めた時にはすっかり記憶が戻っていました。

怖いのは、俺はその時の自分の心情から行動、部屋の内装に至るまで、
目で見たものと感じたもの全部を詳しく覚えていること。
あの時家族が着ていた服の模様も、部屋にかけてある風景画の構図から色、
母親の顔の筋肉のひきつり具合、掛け布団の右端の赤い糸くず、床のよごれ…
とにかくあの時の俺が見た範囲での部屋なら「完璧に」再現できるほどに。
俺が喚いていたのが実質3分ぐらいだったから、きっとその3分で全部覚えたんだよね。
あと、なんであんなに激しく笑ったり泣いたりしたのか、
理由はわからないけど「あんなの全然普通のこと」と認識しているのもなんか怖い。

718: 本当にあった怖い名無し 2006/06/05(月) 18:02:04 ID:O19EkPvy0
【コートを着た男】

ある日、不良であるA君(14)はいつも通り、
家から勝手に持ち出した金でゲームセンターで11時頃まで遊んでいた。
流石に飽きたA君は、家に帰ることにした。

電車を乗り終え、駅から出た。
暫く家に向かって歩いていると、
深く帽子を被り、薄茶色のコートを着た男が向かい側から歩いてくるのが見えた。

すれ違う際、肩がぶつかり、A君は喧嘩腰に
「どこみて歩いてんだ」
と、怒鳴りつけようとしたが、
その日はたまたまゲームセンターで色々商品がとれていたため、
機嫌がよかったので、見逃した。
家に帰り、すぐに布団に入った。

次の日、テレビを見ると、近所で殺人があったことが報道されている。
殺されたのは友人で不良のB君。

インタビューされていた、不良のC君はこう語った。
「10時半頃、家に帰ろうと思ってBと一緒に道を歩いてたら、
薄茶色のコートを着た男が肩をぶつけてきて、
それに怒ったBが、そいつに怒鳴ったら、隠し持っていたナイフで
顔面を2回刺されたあと、心臓を刺されて…。
男はすぐに逃げて、俺はすぐ警察を呼びました。」

Aは凍りついた