800: 別れた女1 2007/03/29(木) 02:39:45 ID:1w4PBrF30
【別れた女】

五年間、付き合った女性がおりました。
五年という月日は、今思えば長いようであり短い期間でした。
四年目が過ぎたあたりから彼女は結婚を口にするようになりました。
付き合い始めた当初から私も将来は結婚しようと言っておりましたし、
いつかは結婚するものと思ってはいたのです。
しかし当時の私は大学を卒業したばかりで就職難民と呼ばれる身でした。
我が身一つの未来も見えず、どうして結婚などできましょう。
彼女は自分も働くからと申しておりましたが、男の我が侭。
彼女と、いずれ出来るだろう子供を私一人で養っていける自信が付くまでは
結婚するつもりにはなれません。
私の気持ちも分かって欲しいと、何度も説得しましたが互いの意見は食い違うばかりです。
愛しているから結婚したい、護りたいから待って欲しい。
皮肉なことに、それが別れる原因となりました。
愛を紡いだ口で互いを汚く罵りあい、彼女の二度と顔も見たく無いという捨て台詞で
二人の関係は終わったのです。

引用元: https://hobby9.5ch.net/test/read.cgi/occult/1173951023/



801: 別れた女2 2007/03/29(木) 02:40:36 ID:1w4PBrF30
それから半年ほど経った時です。
彼女から電話がありました。
やりなおしたいと、忘れられない愛していると、泣きながら訴えるのです。
しかし薄情と思われるかもしれませんが、最後の大喧嘩で私の気持ちはすっかり覚めていました。
寄りを戻すつもりは無いと告げて電話を切りました。
三日後に再び着信がありました。
今度は、会って欲しいと言うのです。
会って話せば寄りが戻ると思っているのでしょう。
優柔不断で流されやすい私は、付き合っていた頃は彼女に決断を任せていました。
そんな私の性質を知っているからこその誘いなのです。
もちろん断りました。
次の電話は二日後でした。
三度目ともなるとウンザリしてきます。
着信表示を見るのさえ嫌な気分で、クッションの下に携帯を押し込んで居留守を使うことにしました。
設定通りに20コールで切れたかと思うと、またすぐに掛かってきます。
何度も何度も何度も何度も・・・
耐え兼ねて出る決心をして携帯の画面を見ると、履歴は30を越えていました。
ここまで来るとイヤガラセとしか思えません。
ひとつ説教でもしてやろうと、受話ボタンを押した時です。

802: 別れた女3 2007/03/29(木) 02:41:15 ID:1w4PBrF30
「なんで出ないのよ!!!!」
耳に当てなくとも聞こえるような絶叫でした。
情けない話ですが、私の怒りは彼女の声で萎んでしまいました。
怒りを鎮めなければ、それだけを考えました。
フと思いついた嘘を口にします。
携帯を忘れて出かけて今帰ってきた所である。
そして出来るだけ優しい声で、どうしたのか訊ねました。
ククク・・・という押し殺した声に泣いているのかと思いましたが違ったのです。
彼女はケラケラと笑い出しました。
「そこから自販機見えたよね。今も見える?」
私の部屋から数十メートル離れた先に自販機があります。
何を言っているのだろうと眺めて、手から携帯が滑り落ちました。
彼女が鬼の形相で涙を流しながら笑っていました。
付き合っていた五年の歳月の中でも一度も見た事がない顔です。
いや、一度でも見たら即座に別れを決めていたと思えるような恐ろしい顔でした。
その夜は恐怖で一睡も出来ませんでした。
朝日が部屋に差し込むのを感じて救われたような気持ちになりました。
清々しい空気と明るい日差しがそう思わせるのでしょう。
薄くカーテンを開けて自販機を見ると、もう彼女はいませんでした。
ほっとして勢いよくカーテンを開けました。

803: 別れた女4 2007/03/29(木) 02:41:50 ID:1w4PBrF30
窓の真向かい、細い路地の電柱にもたれるようにして彼女は座り込んで窓を見上げていました。
私を見つめて微笑みます。
おはよう、と口が動くのが見えました。
開けた時と同じ勢いでカーテンを閉めました。
面倒な事になった。溜息を付かずにはいられません。
気付かれないように外を見ると、彼女は座り込んだままコチラを見上げていました。
うちには1週間ほどの食料の貯えがあります。
彼女だって飲まず食わずでトイレにも行かずにいる訳にはいかないでしょう。
隙をみて部屋を出て、当分友達の家を回る計画を立てて荷物を纏めました。
しかし彼女は動きません。
もしかしたら丁度私が覗いていない時に用を済ませているのかもしれませんが、
見ている間はずっとそこに居ました。
4日目の夜。
彼女の姿がありませんでした。
私は嬉々として部屋を出ようとドアを見て背筋が凍りました。
新聞受けが奇妙な形で開いています。
造りが新聞を受け取る程度にしか開かなかったのが幸いです。
90度開くタイプだったら、私はそこに彼女の目を見ていたでしょう。
もっと開けようと指がもがくのも見えました。
「ねえ、入れてよ。話をしようよ。あんなに愛し合ったじゃない。もう一度話をしようよ。」

804: 別れた女5 2007/03/29(木) 02:42:37 ID:1w4PBrF30
脳裏に浮かんだのは長年見てきた笑顔ではなく、先日の恐ろしい形相です。
私は布団を頭から被り、みっとも無いほど震えていました。
それでも何時しか眠ってしまったようです。
恐る恐る布団から顔を出して音を立てないようにドアの様子を伺いました。
新聞受けから赤い筋がいくつも垂れていました。
カタン、と鉄の板が小さく開いて何かが投げ込まれました。
赤い筋がひとつ増えます。
それが何なのか理解できると同時に警察に電話を入れました。
肉片でした。
彼女は小さくなって部屋に入って来るつもりなのです。
ほどなくして部屋の外が騒がしくなり、男性の「救急車!」という叫び声が聞こえました。
サイレンの音が聞こえて騒がしさが増し、少しして
開けて下さい、という男性の声に扉を開けました。
本当は開けたくありませんでしたが、男性は警察でしょうから仕方がなかったのです。
私の部屋のドアも床も真っ赤になっていました。
彼女の姿はありません。
既に救急車に運ばれていて、警察の方の配慮で会わないようにしてくれたようです。
発見した時、彼女は自分の指を食いちぎっていたそうです。

805: 別れた女6 2007/03/29(木) 02:43:12 ID:1w4PBrF30
部屋はすぐに引き払いました。
新しい住まいは新聞や郵便物が建物の入り口にあるポストに入れるようになっている所を選びました。
引っ越した当初はカーテンを開けるたびに嫌な汗をかいたものです。
あの事件から数ヵ月後、彼女が自殺したと風の便りで聞きました。
ほっとしました。
悪いとは思いましたが安堵の気持ちが強かったのです。
いつしか私の気持ちも落ち着き、暫くして新しい彼女ができました。
その頃からです。
カタン、ぽとん、カタン。
不規則な音が聞こえるようになりました。
音は玄関の扉の方からします。
カタン、ぽとん、カタン。
別な所に越しても音は付いてきます。
ノイローゼ気味になり、彼女とは別れました。
そうすると音が止んだのです。
また時間が経って、あれは気のせいだと思い始めた頃に女性と付き合う事になりました。
カタン、ぽとん、カタン。
カタン、ぽとん、カタン。

806: 別れた女7 2007/03/29(木) 02:43:44 ID:1w4PBrF30
私は今ひとりです。
結婚は一生できないでしょう。
いや・・・厳密に言えば、私は一生一人になる事ができなくなったのです。
彼女が扉の前で自分を小さくし続けているのですから。

長文、駄文にお付き合い頂きありがとうございました。

807: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 02:44:56 ID:clDuQ1Hf0
おお、文章力が有る文だとやはり怖いね
826: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:04:49 ID:mgI6Vee80
【つんつるてん】

犬の散歩は、大変だと思う。早朝や夜遅くに散歩している人をよく見かける。
そのたびに、ついそんなことを考える。日中は仕事や学校だから、そういう時間帯に
なってしまうのだとは思うが・・・。おれも小さいころ、実家で犬を飼っていたが、
追いかけられた記憶しかない。本人はじゃれていたつもりだったのだろうが、おれに
はそれが恐怖だった。そして中学に上がり、犬にも慣れ始めたころ、飼っていた犬は
病死してしまった。
おれの通っている大学は、下宿先から自転車で15分くらいのところにある。いつ
も近道である川沿いの道を通る。その日も、実習が長引いて遅くなってしまった。
いつものように川沿いを自転車でこぐ。川沿いの道は、車両が一台やっと通れるくら
いの広さ。両岸とも自転車を除いて一方通行となっている。川といっても上水路とい
った感じで、幅はせいぜい10Mくらいしかない。おれは冬の寒さにこごえながら、
家路を急いだ。
 橋にさしかかったとき、人影がみえた。こちらに背を向けてじっと立っている。
犬の散歩中らしく、手づなを引いて、犬が用を足し終えるのを待っている。
「こんな寒い中、大変だな」と思った。
ふと見ると、その人 ズボンの丈が合っていない。スネが丸見えで寒そうだ。紺の
ダウンジャケットを着て、ファー付きのフードを頭まで被っている。
その人の横を通り過ぎたときだった。
「わん。」

827: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:06:41 ID:mgI6Vee80
犬の声とも、人の声ともとれないような声。むしろ音だったのかもしれない。少し
驚いて、おれは振り向いた。
穴だった。黒い穴が三つ。そいつの顔であろう場所にぽっかりあいている。穴のよう
な目と、穴のような口・・・。背筋に悪寒が走った。猛スピードで自転車をこいだ。川沿
いをひたすら走り、一つの橋を超え、二つ目の橋を超え・・・何か嫌な予感がした。振り
返ると、追いかけてきている。距離は遠のいたが、そのまま夢中でペダルをこいだ。アパ
ートに着くころには、そいつはいなくなっていた。
 
次の日、大学の友人に昨晩の出来事を話した。
「そりゃあお前、つんつるてんだよ。」
「つんつるてん?」
妖怪のたぐいかと思ったが、どうも違うらしい。友人が言うには、ズボンの丈が合わず
にスネが丸見えのことを、つんつるてんというらしい。単なる見間違いだ、と軽くあし
らわれた。
 その次の夜だった。そいつはまた現れた。実習で遅くなり、川沿いを帰っていたとき
・・・そいつは同じ場所、同じ格好で立っていた。ズボンの丈が合っていない・・・
「わん」
そいつから逃げるために、思い切りペダルをこいだ。幸いヤツはぼくの自転車について
これない。
「わん。わん。わん。」
犬のような、人のような。低い男の声。逃げ切るまで止むことはなかった。

828: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:08:44 ID:mgI6Vee80
そんなことがあってからというもの、おれは川沿いの道を通らなくなった。ある日、
前に話した友人といっしょに帰ることになった。彼も同じアパートで、帰る方向は同じ
である。「近道を通ろう」と言い出し、イヤイヤ川沿いの道を行く羽目になった。
「ここの道、あいつが出るから嫌なんだよ。」
「ああ、例のつんつるてんか。何かされたのか?」
「いや・・・追いかけられただけだけど」
友人が居たせいなのか、一人でないと現れないのか、あいつは姿を現すことはなかった。

 数日後の夜のことだった。

830: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:10:12 ID:mgI6Vee80
あいつが現れた。飲み会の帰り、少し酔っていて川沿いの道を使ってしまったのだ。いつもの場所、いつもの服装・・・顔はフードで見えない。ただいつもと違うのは、あいつが自転車に乗っていたこと。犬を連れて、あいつは橋の向こうからこいできた。
「わん。」
夢中でこいだ。こいだ。でも今度は違う。あいつは自転車に乗っている。振り向くと、
目の前にあいつの顔があった。白い肌、作り物のような肌にぽっかりとあいた穴三つ。
こいでも、こいでも距離は遠のかない。
「わん。わん。わん。」
あいつの連れている犬は、スピードについていけずに引きずられている。
「わん。わん。わん。わん。わん。わん。わん。」
もう酔いなんてとっくに醒めてしまった。
「このまま家に着くと、あいつに居場所がバレる!」そう思って、とっさに道を曲がり
、公園の便所へ逃げ込んだ。
 洋式便所にカギをかけ、閉じこもると、すぐにあいつがやってきた。ドアの向こうに
立っている。下の隙間から覗くと、丈の合っていないズボン・・・。
「つんつるてんだ。」あいつは、しばらくその場で動かないでいた。
と・・・。
・・・ドンッ
 ドアのたたく音。

831: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:11:26 ID:mgI6Vee80
・・・ドンッ  ・・・ドンッ  ・・・ドンッ
 いや、叩くというよりかは、何かをドアにぶつけている。
・・・ドンッ  ・・・ドンッ  ・・・ドンッ
寒さと恐怖で限界だった。何時間そうしていただろうか。気づくとあいつはいなくな
っていた。便所を出ると、ドアの外側が凹んでいた。そして血と、犬の毛がこびりつ
いている。あいつがドアにぶつけていたのは、自分の連れていた犬だったのだろう。
でもドアにぶつけている間、犬の鳴き声は聞こえなかった。あいつの「わん。」という声
以外は・・・。

832: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:13:14 ID:mgI6Vee80
 しばらく二週間くらい大学を休んだ。その間、友人の部屋で寝泊りした。
おれと友人は同じ医学部生だ。講義と実習で、毎日大学へ通っている。
ある日、友人が言った。
「なあ、そのつんつるてん、なんでお前を追っかけたんだ?」
「知るかよ、そんなこと」
「追いかけられたからには、理由があるだろ?理由が」
おれには見当もつかなかった。あいつが追いかける理由・・・なぜ追いかけられたのか?
「逆に考えてみてさ、そいつに追われたときお前何してたよ?
 たとえばどんな格好してたかとか。」
思い出しても心当たりがない。ただ・・・
「そういえば、黒いダウンジャケットを着てたな。」
あいつに襲われた日は、思い返すと毎回黒いダウンを着ていた。
「うーん、お前の黒いダウンに何かあるんじゃないか?」
そう考えると、理不尽な話である。黒いダウンを着ていただけで目を付けられ、追い
かけられ、とじこもったドアに,連れていた犬を投げつけられる・・・。
しかし、思いつく原因はそれくらいしかなかった。捕まったら、一体どうなっていた
のだろう。
 それ以来、おれは白いダウンを着るようになった。友人に説得され、大学にも通い
だした。しばらく川沿いの道は止め、遠回りして大通りの街道沿いを行くことにした。

833: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:14:41 ID:mgI6Vee80
 それから数日がたち、大学は冬季休業に入った。冬休みである。でもおれは、これか
ら4日間毎日、大学へ通わなければならなかった。医学部の実習では、週に2回解剖の
実習がある。しばらく大学を休んでいた時期があったから、休んだ分の実習を終わらせ
なければならなかったからだ。解剖の実習は、決して面白いものではない。3,4時間
解剖室にこもってひたすら検体。。。つまりご遺体のスケッチを描くのだ。ずっと立ちっぱなしで作業をし、先生のダメ出しをくらい、やりなおす・・・その日の分を終わらせた頃には、日が暮れていた。
 実習をしに大学へ通って3日目の夜だった。いつものように遠回りして帰る。明日が
実習最後だ。最終日に実習テストをやることになっている。解剖学的な名称を答えさせ
る問題だ。おれは明日のテストにそなえ、途中で喫茶店へよって勉強することにした。
駅前の喫茶店に入り、窓際の席へ腰をおろす。イヤホンを取り出し、勉強に集中する
・・・。そうして、一時間たった頃だろうか。

834: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:16:16 ID:mgI6Vee80
・・・ドンッ
驚いて窓を見た。あいつだ。つんつるてん。あいつが外にいる。
窓越しに穴のあいた目でぼくをじっと見つめていた。・・・と
ドンッ・・・ズルズルズル
窓に向かって、あいつは犬を投げつけてきた。犬はミニチュアダックスフンドだろうか、
とにかく小型犬だ。あいつは投げつけた犬の手づなをたぐり寄せ、犬を手元に運んだ。
とまた・・・
ドンッ・・・ズルズルズル  ドンッ・・・ズルズルズル  ドンッ・・・ズルズルズル
また投げつける。手づなをたぐり寄せ、また投げつける。その繰り返し。こいつは一体、
何がしたいんだ!?なぜおれだけ狙ってくる?
ドンッ・・・ズルズルズル  ドンッ・・・ズルズルズル  ドンッ・・・ズルズルズル
窓は、だんだんと犬の返り血で赤くなっていった。
あいつは人間だろうか?なにがしたいんだ?
しばらくして、警備員が駆けつけてきた。あいつはもういなくなっていた・・・。

835: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:17:49 ID:mgI6Vee80
 家に帰り、今までのことを思い起こしてみた。なぜあいつはおれを狙うのだろう?
今日着ていた服は、白のダウンだった。黒のダウンじゃないのに、あいつは現れた。色は
関係ないのだろうか?だとすると、他に何があるというのか。あいつが現れたとき、おれ
がしていた共通のこと・・・共通の・・・
「あ・・・もしかして・・・解剖。」
思い当たった。あいつが現れた日、おれはいつも解剖の実習があった。解剖室は、いつも
検体のホルマリンの臭いが漂っている。3、4時間もそこにいると、体にホルマリンの臭
いが染み付くのだ。もしかして、あいつはその臭いに反応したんじゃないだろうか?
色ではなく、臭いに・・・。そう、まるで犬のように・・・。黒を着ていたのは、解剖で
汚れが目立たないから着ていただけのことだった。
 次の日、おれは実習テストを終え、川沿いの道を通ってみることにした。その日はテ
ストだけだったので、解剖室には入っていない。ホルマリンの臭いはしないはずだ。
注意しながらいつもの場所へ向かう。・・・
いた。あいつはそこに立っていた。いつものように犬を連れ、身動き一つしない。
横を通り過ぎた。振り返ってみる。あいつは同じ格好で立っていた。気付いた感じも
ない。

836: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:19:42 ID:mgI6Vee80
「そうか・・・やっぱり臭いだったんだ。」
あいつは何者なのか、よくわからないが、これではっきりした。ホルマリンの臭いに反応
していたんだ。おれはなんだか可笑しくなった。もう実習は無い。ホルマリンの臭いもな
い。よって、あいつに追われることはないんだ。明日からは晴れて冬休みだ。休みを
満喫できる。気分がよかった。途中、友人の部屋に行こうとしたが、留守のような
ので帰って寝ることにした。明日は友人を誘って服でも買いにいこう・・・

 朝、チャイムの音で目がさめた。ドアを開けると、二人の男が立っていた。

837: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:21:28 ID:mgI6Vee80
「警察ですが。」
「・・・何ですか?」
「あなた、この方の友人だそうですね?」
警察は友人の写真を取り出した。
聞くと、おれの友人は下の階の部屋で冷たくなっていたそうだ。死後数日たっている。
なぜか数日しかたっていないのに腐乱していた。部屋はカギがかかっていて、自殺の
疑いが強いという。
「一応、確認をお願いしたいのですが。」
警察に言われ、おれは死体の確認をさせられた。友人の顔は膨れ上がって生前の面影
は無い。
「彼・・・だと思います・・・たぶん。」
つんと鼻をつく臭い・・・これが死臭というものなのかと思った。
「臭いが出てもね。気付かないことの方が多いんですよ。まあ一般の方は死臭なんて
嗅いだことありませんものね。」
警察が言ったとおり、おれにもわからなかった。おかしいとは思っていたが、まさか
友人がこのような姿になっていたなんて。

838: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:22:54 ID:mgI6Vee80
「何か変わったことはありませんでしたか?」
おれはふと、彼の部屋のドアを見た。よく見ないとわからないくらいの・・・
凹みと・・・血のような跡・・・そして郵便受けには犬の毛のような・・・

ドンッ・・・ズルズルズル  ドンッ・・・ズルズルズル

あいつが、友人の部屋のドアに犬を投げつけている映像が浮かんだ。投げつけ、たぐり
よせ、投げつけ、たぐりよせ・・・。
ズルズルズルズルズ・・・

警察の事情聴取が終わって、おれは部屋に引きこもっていた。もう出かける気も失せ
ていた。ここ数日、友人を見ていなかった。あいつは、友人を殺したのだろうか。そん
なこと出来るはずない。そう信じたい。でもあのドアの凹み・・・あいつは友人の部屋
にやってきていた。
あいつは、同じ大学の友人を自殺にまで追い込んだんだ。次は、おれだ。

839: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:24:35 ID:mgI6Vee80
・・・バリンッ
いきなり窓が割れた。何か投げ込まれた。部屋の外からだ。見ると、小型犬がぐったり
している。
「わん。」
うあああああああああいつだ。あいつがおれの部屋の外にいる。裏庭から犬を投げつけ
たんだ。おれは思わず部屋を飛び出した。どこでもいい、とにかくここから逃げたかっ
た。夢中で走った。
ブロロロロロロロロ
後ろからエンジンの音がする。あいつはスクーターに乗って追いかけてきた。
あいかわらず犬を連れている。泣き声をあげず、引きづられている。犬のかわりに
聞こえるのはあいつの鳴き声。
「わんっわんっわんっわんっわんっわんっわんっ」
だめだ!このままだと追いつかれる!足とスクーターじゃ時間の問題だ。
「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん」
あいつの声がしだいに近づいてくる。

「わんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわんわん」

路地を抜けて、大通りが見えた。おれはとっさに右に曲がった。

841: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:26:41 ID:mgI6Vee80
キキキキキーッ
ブレーキの音。そして衝突音・・・。
あいつは曲がりきれずに対向車と衝突した。あいつは宙を飛んだ後、後ろからきた
トラックの下敷きになった。
・・・おれは唖然としていた。時が止まったかのようだ。
「死臭だ・・・。」
色でもない、ホルマリンでもない、あいつは死臭を追ってきていたんだ。人間が感じる
ことのできないくらいの、死の臭い・・・。
トラックのタイヤの間から、あいつの足が覗いていた。短いズボンから見える、あいつ
のスネ・・・つんつるてんは動かなかった。
しばらくして、野次馬が集まってきた。
「うわあ・・・ひどい」
「救急車は?」
「なになに、どうしたの?」
人々の話し声が聞こえる。
「顔がぐしゃぐしゃだ。みんな見ないほうがいいぞ。」
誰かが言った。
とたんに、寒気が襲った。おれは偶然右に曲がったからいいものを、もしも真っ直ぐ
走り抜けていたら・・・おれがあいつのようになっていた。あいつは、死の臭いを嗅
ぎ分ける・・・。

842: 本当にあった怖い名無し 2007/03/29(木) 14:27:45 ID:mgI6Vee80
友人を自殺に追い込んだのは、あいつなのだろうか?それとも、友人の自殺を嗅ぎ分
けてやってきたのか。おれにはわからなかった。
 つんつるてんは死んだ。血が流れている。動かない。
「事故だ、事故。犬も死んでるよ。」
さらに野次馬が集まってくる。みな興味心身だが、かわいそうの一つも言わない。所詮
他人が死んだというのは、そういうものなのだろうか。
みんな、死んだつんつるてんを覗き込んでいた。買い物中の主婦や、子連れの親子
・・・おじいさん、おばあさん・・・犬の散歩中だった人も。
犬を連れた人も。散歩中の人も。犬を連れた人も・・・犬の散歩を・・・あれ?
あれ。
犬を連れてる人、なんだか多くないか?

 いっせいに、ゆっくりと、こっちを向いた。

「わん。」

929: ムンクはオカルト ◆PH4Mje0jPU 2007/03/29(木) 22:49:13 ID:cMlUejEvO
【咬み合わない】

ちょっと長くなりますが読んで頂けると嬉しいです。

私は幽霊が見える人ではなくて、どちらかと言うと感じる方です。そして、いつも不思議な体験をする時にいる奴がいるんですが、
小学校からの友人の中ちゃん【以後N】と、たかし【以後T】です。
いくつかお話しするのは
私が高校卒業時にNと一緒に体験した話とTとの話です。

Nとはよく深夜にドライブがてら夜景スポット、心霊スポットを探しに行っていました。
この日は私とNとkの3人で宝塚の方へ行き今まで行った事ない所へ
決まったのは『朝鮮墓地』
しかしこの3人の誰も朝鮮墓地の場所を知らない
って事で近くのコンビニに寄って店員に聞くコトにしました。
店員は丁寧に教えてくれたのですが…
このコンビニからは結局離れているのか長い説明をされ、実際は途中途中聞き流していました
説明が終わり店員さんに
『途中気をつけて下さいね』
と、言われ
「朝鮮トンネルですか?はい、ありがとございます」
と、礼を言って
コンビニを出ようとした時に
『どこへ 行く?』
と聞かれ
私は半笑いで
「朝鮮墓地ですよ?」と店員さん言ってコンビニを出ました。

930: ムンクはオカルト② ◆PH4Mje0jPU 2007/03/29(木) 22:52:35 ID:cMlUejEvO
車に戻るやいなや
車に残ってたNが
『大丈夫?』と言う
俺は道をちゃんと聞いた?と解釈し
「大丈夫」と答え
『ならいいけど』とN
そんな会話をし、車を走らした
走り出してすぐは店員の言う通りに進み順調に墓地に向かってると思えた
実はコンビニで道を聞いてる時Kも一緒に話を聞いていて後半の運転をKに任せようと思っていました
しかし残念ながらKも後半を聞いていなかったらしく
結局私が勘で運転する事になりました
勘で運転する事15分くらい山道(ほとんど峠?に近い、六甲山を知ってる方はわかると思います)を登っていると店員が言っていた様工場跡と目印が見え
この道であってると思いました。
その目印は
【!】の標識
都市伝にある標識で不気味であるが、ただの【その他危険】
そして、もう一つがぽつんと立っている
【公衆電話】である
私たちは好奇心で【!】の標識と【公衆電話】の心霊関係を結び
その公衆電話で肝試しをする事にしました
公衆電話の受話器を取り何か喋るってだけの
もちろん行くのはKのみです
Kを車から出し公衆電話に向わした後
いたずら心で車を動かしKと公衆電話を追い越した所に車を止めてKを観察していました

931: ムンクはオカルト③ ◆PH4Mje0jPU 2007/03/29(木) 22:54:12 ID:cMlUejEvO
しかし、普通なら車が動いた瞬間
「待ってぇ~」
と泣きそうな顔で追いかけてくるのが普通だと思っていたのだが
予想に反してKが普通に回りをキョロキョロしながら公衆電話に入ったのが見えた
しかし一瞬の事で見ていた俺たちも分からなかったが
Kがいきなり電話ボックスから飛び出て
さっきまで俺たちが車を止めていた方向へ走り去ってしまった
何が起きたか分からない俺たちだが
ライト無しじゃ、ほぼ真っ暗で
しかも人っ気がないと言っても一応道路なので、あのままじゃああぶないと思い
Uちを切り(Uターン)kを追いかけました
そして車が公衆電話の横を通り過ぎた時
私は心臓が止るかと思いました
なんと電話ボックスの中に逃げ出したKがチラッと見えたのです、
私が「ぇ!K…」と言い掛けた時
『おった!危い前!』とNが叫んだので
私は急ブレーキを掛けました。
何がなんだかわからず前を見ると驚きと泣きそうな表情のKが居たんです
私は「さっき電話ボックスにKが…」と言いたかったのですが、とりあえず先にKを車に乗せました。
そしてNがKに
『なんで向こう走って行ってん?危い』と聞くと
Kは『まず聞いてくれ…』と怯えながら話してくれました

932: ムンクはオカルト④ ◆PH4Mje0jPU 2007/03/29(木) 22:55:33 ID:cMlUejEvO
Kいわく、
車から降りた後ゆっくり公衆電話に向っていると
『ジリリ…』
と公衆電話が少し鳴ったと言うんです
もちろん車にいた私たちは聞いていません
さらにKは続けます。
そのままキョロキョロしながら電話ボックスに入ったと言いました
俺たちはほぼ同時に
『車動いたん気付いたやろ?』と質問しましたが予想外な答えが返って来ました
「俺ボックス入ってすぐに車の方見たら俺見てニヤニヤしてたやん?」

そのまま受話器を取って耳に当ててもないのに
[ドコ いく そっチ ない]って聞こえて来て慌てて車の方に逃げた
「しかも車バックのまま逃げたやろ?」
とKは言いました。
私たちはあえてそこでKに車を動かして先で待ってたことは言いませんでした。
取りあえず一回引き返すことにして無事解散したのですが
その後
Nからの電話で
『なぁ、また夜に宝塚いかへん?』
「いいよ、また公衆電話?」
『違う、墓地』
『なんでか分かったで』
「何が?」
『お前も声聞いてたやろ?』
「…」
この後、私たちは朝鮮墓地にいきました、
その話も又聞きたい人があれば

読みにくい文、長くてすみません
読んで下さった方ありがとうございます。

191: 本当にあった怖い名無し 2007/03/31(土) 21:25:07 ID:V+16DGHG0
【心霊相談で来たカップル】

俺の家の神社に、このあいだ心霊相談で男女のカップルが来た。
対応したのは姉ちゃんで、写真の相談だった。
心霊写真かと思って、面白そうだったので俺も同席した。
しかし見るところ普通の写真。なんだよ、普通じゃねーかと思ってたら
なんか女が写ってるところにプツプツと穴が開いてる。
「ああ、丑の刻参りで使われましたねー」
って平気な顔で姉ちゃんが言ったら女のほうが泣き出した。
お姉ちゃんは女の人をなぐさめて、俺は暇になってきたから部屋に帰ろうと思った。
そのとき男の方をチラリと見たんだけどなんか様子が変。
自分の唇をベロベロ舐めて、息遣いを荒くしながら女を見てた。
姉ちゃんもそれに気付いたらしく、女だけ違う部屋に呼んだ。
俺と男は二人きりになった。
「あ、あの、大変でしたね」と、声をかけてみた。男は無視。すると急に
「ね、俺の彼女可愛いでしょう。どこどこで会って~」と、なれそめを話してきた。
俺は会話をさえぎるように、「すいません、トイレ」といって席を立った。
なんだかあの男が嫌だった。
トイレから戻ってきたとき、女と男は帰るところだった。
「この写真は処分しておきます。気をつけてくださいね。また来て下さい」
と、姉ちゃんは女にお守りを渡した。「ありがとうございます」って言って、車に入っていった。
すると急に男が俺に近づいてきて、
「やっぱり女はああやって恐怖におびえている時が一番可愛い」と呟いた。
俺は凍りついた。ああ、丑の刻参りをしたのはこいつだ、と。
そうして車は走って行った。
あのカップルうまくいってるのかなあ…

192: 本当にあった怖い名無し 2007/03/31(土) 21:36:44 ID:IzY6q4aC0
>>191
乙!
すごく怖いですね
288: 本当にあった怖い名無し 2007/04/02(月) 13:09:24 ID:RpoV5HYu0
【鬱憤(うっぷん)】

彼岸の時の話。

車で2時間の所にある実家の墓参りに家族総出で行った。
家族が墓掃除しているときに、妙な眠さにおそわれたので
疲れたからちょっと座ると言って、墓の近くに座ったら寝てしまった。

子供の頃の夢を見た。
祖母が「キチジ(魚の種類)がねぇと飯食わねぇ!」と母に怒鳴ってる様子だった。
子供の頃はキチジを買ってきて食べさせればいいのに、と思ってたんだけど、
今改めて魚屋で見ると一匹3000円~5000円の魚を毎食要求、そのため家はお金が無く、
買えないからというと「この嫁は飯を食わせない気か!」と祖母が怒鳴っていた記憶が
ある。今思えば嫁いびりだ。
おかげで学校の体操服も買えず、母が近所の同級生の家から捨てるような体操服を
もらってきてはそれを着させられていた。だから貧乏の子供として小学・中学ともに
常にクラスでハブられてた記憶もよみがえった。

夢の中で、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせて祖母を何度も蹴った。
布団の上で背中を丸めて泣いている祖母を蹴っ飛ばすたびに妙な満足感を感じていた。
なにか胸の中のつかえが消えていくようで、すっごくさっぱりした。

目を覚ましたら、いたのは病院。
父が無表情でこっちを見ている。おかしいと思って聞いてみたら、
キチガイみたいな顔をして墓に向かってののしりながら俺が墓石を何度も
蹴っていたらしい。一通り蹴ったら突然崩れるように倒れたので病院まで
父が車で連れてきたという。
墓石は上の部分(○○家之墓と掘ってある部分)が下に落ちて壊れたとも聞いた。
俺は足首から下を固定され、右足の親指の爪が割れている。

後悔はしていない。あの夢で、子供の頃の記憶が祖母による母に対する嫁いびり
だったとハッキリ分かった。
今でも思う。
絶対あのババア、地獄にたたき落としてやる。

294: 本当にあった怖い名無し 2007/04/02(月) 15:03:36 ID:CudeRwYIO
>>288
おばあちゃん酷いね…

407: 水恐怖症1 2007/04/03(火) 02:02:38 ID:LUthtziZ0
【水恐怖症】

俺は元水泳部だ。
だけど、今は水が怖くて幼児用のプールにも入れない。
その原因となった話をしようと思う。
数年前の冬、友人のS宅に呼び出されたのは夜10時も回った時だ。
翌日は休みだったし予定も無かったから、呼び出しに応じる。
女癖が悪くてイザコザに巻き込まれる事数回。
自己中だから友人も少ない。
今回も振り回されるのを覚悟だった。

部屋に着くなり、Sが服を投げて寄越した。
夜釣りに行くのだと言う。
軽装だったから、確かにこのままで行ったら寒い思いをするだろう。
コートだけで良いと言ったのだけれど、汚れると言われて一式借りる事にした。
自己中なSにしては気が利く。
俺とSは体型がよく似ているから、借りた服はピッタリだ。
Sの服を着て帽子まで被ると、鏡に映る自分がSソックリで不思議な気分がした。

408: 水恐怖症2 2007/04/03(火) 02:03:23 ID:LUthtziZ0
行き先は車で30分程の沼。
釣りは詳しくないからドコで何が釣れるという知識は全くない。
言われるままに餌をつけて糸を垂らした。
月明かりで、水面に浮かぶ浮きが揺れるのを、ぼうっと眺める。
釣りは誘われればする程度だし、暗いし、会話もないし、暇だ。
それにしても、こんな時間に俺を釣りに誘うなんてSも余程暇だったのだろう。
ふと思い出してSに訊ねた。
「そういえば、彼女は?」
翌日が休みともなれば、大概は彼女と一緒に居たはずだ。
特に今付き合っている女はベッタリするのが好きだとノロケられていたし。
「あぁ、その事なんだけどさ。」
ふいに真面目な顔をしてSが俺を見た。
「幽霊、信じるか?」
俺の問いを無視した問いで返されたけど、Sとの会話では良くある事だ。
ぶっちゃけ俺は幽霊だの妖怪だの信じないタチだった。
そう答えるとSは笑った。
「だからお前を呼んだんだよ。」
そう言って、Sは俺が嫌いな(苦手という意味ではない)類の話をしだした。

409: 水恐怖症3 2007/04/03(火) 02:03:56 ID:LUthtziZ0
あの女な、自殺したんだよ。
一緒に海を見に行って、そこで喧嘩して。
ヒステリーおこしてさ。
俺、頭にきて女を置いて一人で帰ってきたんだ。
家に着くなり警察から電話。
女が俺の連絡先を書いた遺書を残して海に飛び込んだんだと。
近くにいた釣り人が見ていて、すぐに連絡してきた。
・・・死んでた。
遺体は1週間前に上がったそうだよ。
10日くらいは水に漬かってたみたいだな。
それからだよ。
風呂にお湯張れば、風呂の中に女の顔。
川を見ればコッチを見てる。
しまいにゃ、味噌汁や珈琲の中からも出てくる始末だ。
どうやら水が溜まってる所に出てくるみたいだ。

410: 水恐怖症4 2007/04/03(火) 02:05:45 ID:LUthtziZ0
俺は大笑いした。
どうやら、自己中なこの男にも罪の意識は人並みにあるらしい。
だって幽霊が本当にいるなら死んだ直後から出るんじゃないか?
そう言うとSも笑った。
「じゃあ、お前怖くないよな。実はそこに今も居るんだ。」
そこ、と指差したのはSから少し離れた水際だった。
もちろん俺は怖くない。
「ここか?」
立ち上がって、その場所に立った。
Sも立ち上がって隠れるように俺の背後に立った。
「なんだよ、怖いのかよ。」
普段からは考えられない脅えようが可笑しかった。
「あの女、目が悪かったんだ。コンタクト無しじゃロクに見えないくらい。」
Sがボソボソと俺の耳元で呟く。
ドン、と背中を押されて俺は沼に落ちた。
落ちたといっても、岸と沼の高低差は30センチも無い。
くわえて、沼は浅くて尻餅をついた俺の臍までしか水は無い。
「ふざけんなよっ!」
立ち上がって岸に上がろうとしたとき、何かに足が絡まった。

411: 水恐怖症5 2007/04/03(火) 02:06:32 ID:LUthtziZ0
藻かゴミかと振りほどこうとしたけれど、足が上がらない。
Sは引き攣った笑いを顔に貼り付けていた。
「悪いな。」
足に絡まったモノは脛を這い上がってきた。
目をやると、ブクブクに膨れた手が月明かりに照らされて異様にハッキリと見えた。
本当にテンパッた状態だと悲鳴も出ない。
手が伸びて腿を這い上がり、腰に届いた時に水から頭が覗いた。
生前の彼女を見たことがあったけれど、面影は何一つ残っていない。
腰に抱きついて俺を水の中に引きずり込もうとする。
助けを求めようと岸を見ると、Sの姿は無かった。
エンジンの音が遠ざかっていった。
女は完全に俺に覆いかぶさった。
死ぬ。殺される。
そう思ったとき、ふいに身体が軽くなった。
耳元で声が聞こえた。
「また置いていくのね。」
息がかかるくらい近いけれど、空気は動かない。
「つれてって」
生臭い匂いがした。

412: 水恐怖症6 2007/04/03(火) 02:07:10 ID:LUthtziZ0
体中が氷漬けになったように冷たい。
沼から這い上がって、どこをどう歩いたのか記憶にない。
気が付くと、自宅の玄関で子供みたいに泣いていた。
沼の水を吸った衣類を脱ぎ捨ててゴミ袋に詰め、シャワーを浴びる。
どんなに熱いお湯をかけても、背中が冷たい。
布団にくるまっても寒くて寒くて、我慢できずに元凶のS宅へ車を飛ばした。
Sも普通の状態じゃなかったのだろう。
鍵が開いていた。
扉を開けた瞬間、背中から何かが抜けたような気がした。
「おい!S!!」
ふらりと奥から出てきたSは、俺を見るなり真っ青になって震えだした。
ぶん殴ってやろうと手を伸ばして、Sの視線が俺の後ろにある事に気が付く。
「おまえ・・・水、ないのに・・・・・」
背後から生臭い匂いがした。
ここに1秒でも居たくない。居てはいけない。
目を瞑ってSを突き飛ばし、躓きながら部屋を飛び出した。

414: 水恐怖症7 2007/04/03(火) 02:07:40 ID:LUthtziZ0
翌日、友人数人を誘ってS宅に向かった。
死んでいたら最後に会った俺が疑われるだろう。
妙に現実的な事を考えながら友人達に先を譲る。
やはり鍵は開いていた。
先に入ったやつが呼びかけているが返事は無いようだ。
上がるぞ、と声をかけて上がりこんでもまだ俺は部屋の外にいた。
「S!おいS!?」
慌てた声に、やはり・・・と溜息が出た。
自業自得とはいえ、最後まで面倒に巻き込まれてしまった。
「おい、なんだよコイツどうしちゃったんだよ。おい、俺が分かるか?」
様子がおかしい。どうも死体を見つけた雰囲気ではない。
覚悟を決めて部屋に入ると、友人達に囲まれてヘラヘラと笑い続けるSがいた。
目の焦点があっていない。
頭からグッショリと水を被ったように濡れている。
「シッカリしろ、S!」
ヒヒヒ、と壊れたSは笑い続けるばかりだった。
呆然と立ち尽くす俺の背後に、また生臭い匂いの気配が立った。
「ありがとうねぇ」

俺は、この一件依頼、海にも沼にもプールにも近づけなくなってしまった。

470: 1 2007/04/03(火) 23:28:22 ID:nptHQw0A0
【お面を被った人】

心霊ではないのだが、幼少の頃に父と父が勤務していた職場の
社長から聞いた薄気味悪い話を。

家の父は「レッカー屋」という職業をやっていて、簡単に言うと
クレーンを操縦して大工さんと一緒に家を建てる仕事をやっている。

この仕事は一般的にレッカー屋さんで何年か雇われ運転手として経験を積み
資金をためて独立するのだが、家の父も何軒かのレッカー屋で経験を積んだ後に
40歳くらいで独立した。

父が雇われ運転手として最後にお世話になったレッカー屋さんがKさんという方が
やっている「K重機」というレッカー屋で、Kさんの自宅兼事務所があるのは
神奈川県の茅ヶ崎で、父は毎朝から横浜の自宅から車でKさんの家に行き、そこから
クレーンを運転して現場に向かっていた。
父がK重機でお世話になっていたのは俺が幼稚園~小学校低学年くらいの時期で、よく父に
連れられKさんの家に連れていってもらっていたのだが、今だに印象に残ってるのは
Kさんの奥さんが霊感が強いらしく、俺が遊びに行くたびに怖い話を豪快に
「まったくやんなっちゃうわ、アハハハ」と笑いながら話してくれた。

俺が遊びに行くたびに、サービス精神を発揮して怖い話をしてくれるものだから
当時の俺はKさん家に遊びに行くのが嬉しい反面、ちょっと怖い、ちょっとドキドキと
言ったような感じで、父と一緒に車でKさん家に向かう道が冒険、怖いところへ
続く道、みたいに思えて、毎回Kさん家に向かう道中ワクワク、ドキドキしていた。

471: 2 2007/04/03(火) 23:29:45 ID:nptHQw0A0
Kさん家へ行く途中に確か、バス停があり、父は毎朝そこの前を必ず通る事になっているのだが
ある日、父と車に乗り、そのバス停の前を通った際に父がふと思い出したかのように

父「そういえばな、毎朝5時半頃かな、国年さんの家に行く時にここを通ると
  バス停に必ず一人だけ女が立ってるんだよ。ここら辺のバスが何時に始発が
  出てるのか知らないけども、俺がここ通る時は大体そのバス停にいんだよ。
  最初は特に意識してなかったんだけども、この道を通るようになって
  しばらくしてね。気付いたんだよね」

俺「何を?」

父「そいつ、お面被ってるんだよね」

俺「お面?どんなお面?」

父「お祭りに売ってるようなお面。ドラゴンボールとかあぁいうやつ」

俺「顔をまったく見えないの?」

父「見えないなぁ、いつもお面被ってるからなぁ」


出勤途中にお面を被ってバス停に立ってる薄気味悪い女がいるという話を
父から聞いてからと言うもの、そのバス停の前を通るのが怖くてね。
昼間はまだいいけども、Kさんの家に遅くまでお邪魔して夕飯までご馳走になってしまう事が
結構あったからそうなると、国年さんの家を出る頃には辺りは真っ暗よ。
「もしかして、帰り道にお面のバス停女がいたら怖いな」なんて思いながらも
やっぱり見たいという気持ちがあり、助手席のシートに隠れるようにして窓からこっそりバス停を
見てみたたり、後部座席に隠れてそこを通る際に父に「いる?ねぇいるー?」とびびりながらも
楽しんでいた記憶がある。

473: 3 2007/04/03(火) 23:35:03 ID:nptHQw0A0
でそれからしばらくして、これまたKさんの家に行った時に、父が話し始めたのか俺が話し始めたのか
忘れたが「お面をかぶった女」の話になったのだが、その時にKさんが

「あ?見た?修ちゃん(父の名)も見たことある?あぁそう」と。

どうやらKさん、そしてKさんの娘の旦那さんも何度か目撃した事があるらしく

「あいつ、ずーっといんだよ、あの時間に。もうかなり前から。
 いつもお面かぶってんの。俺は女房と違って霊感とか無いけども、
 俺にも見えるってことは、あいつは幽霊じゃねぇわな。人間だよ。
 あいつは何かおかしいよ、それは俺でもわかるわ。よく考えてみなよ。
 あんな薄気味悪いのが幽霊だったらまだ納得いくだろう、幽霊とかって
 怖くて薄気味悪いもんなんだからさ。
 幽霊じゃなくて人間が、あんな時間にお面を被って一人ポツンと立ってる。
 これ幽霊なんかより怖いでしょ?
 それとね、あいつスカートとか穿いてるけども、あれ女じゃねえぞ。
 あれ男だ、男。俺ね、一度見てるんだよ、顔の一部を。
 あいつがお面を少し上にずらして缶コーヒーか何か飲んでるところをたまたま見たことあんだけど
 あれは女の顔じゃなかったよ。あいつ何だろね?意味がわからないから
 俺はあぁいうのが一番気持ちわりいや」


Kさん家の近所では結構有名な話らしいのですが、一体何者なのかはわからんみたい。

確かに、幽霊だったらどんなに奇妙でも「幽霊だからな」とまぁ怖いながらも納得できるが
生きている人間が毎朝五時過ぎに女装してバス停にお面を被って立ってるって幽霊より怖いかも。


長々と駄文を失礼しました。(一部、登場人物の名前をイニシャルにし忘れた、すみません)

703: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:00:12 ID:HTE9QAHIO
【三つ折れ人形】

私の実家に、着物の袖が少し焦げ、右の髪が少し短い、一体の日本人形があった
桐塑で出来た顔には、ちゃんとガラスの目がはめ込まれていて、その上に丁寧に胡粉の塗られた、唇のぽってりとした、たいへん愛らしい顔の人形だった
牡丹の花柄をあしらった黒い着物が、よく似合っていて、帯にも本物の金糸が入っていた
しかし何より変わっているのは、その人形、膝と大腿部が曲がるように出来ていて正座をさせることができる
これが三つ折れ人形というもので、今でもなかなか珍しく、また高価な人形だった

704: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:02:50 ID:HTE9QAHIO
いつの頃からあったのか、母の実家に、祖母が嫁いだ時には、すでにあったという
母の実家は江戸の頃から続く、大きな薬種問屋を営んでいて、一時はたいそうなものだったらしい、なにしろ遊ぶ玩具がないから、金の鈴を手鞠代わりにして遊んだと云われていたぐらいだから
おそらく、そんな背景のなかで家に来たのかもしれない
もちろん母の時代には、すっかり零落してしまっていたが

705: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:05:31 ID:uPnuLTciO
ともかくも母はその人形をとても大切にしていたそうである
また毎年、桃の節句にには雛人形と一緒に雛壇の端に、その人形は飾られた
けれどもその年は、時節柄、また母が不在だったこともあり、家ではいつもの雛壇を飾ろうとは思わなかったそうだ

たしかにそうだが女にとっては大事な節句
祖母は母が帰ってきたら寂しがるだろうと思い、簡単ではあるが、雛人形一式の入った長い箱に、赤い毛氈を敷き、内裏雛の男雛と女雛だけを飾り、その端にあの人形を座らせる事にしたそうである
ちょうど近所の娘さんが遊びに来ていた、当時16、7歳だったのではないだろうか
深川小町と噂される程のたいへん綺麗な人だったそうである
その人と二人でつつましい雛壇を飾ったそうである

706: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:08:01 ID:uPnuLTciO
ところが、いざあの人形を飾る段になって、うまく座らない
胴体にも厚く胡粉が塗られてあってバランスは良く、普段はすぐに座るはずが、その時はコロリと倒れてしまった、ふたたび試みても同じであった
数度繰り返して、見かねた祖母が、代わろうかと 言おうとした時に、漸く座った
やれやれと思って、雪洞に灯りをつけた時、またひとりでにコロリと倒れ、畳に落ちた
その拍子に雪洞も人形の上に倒れて着物の袖と髪を少し焦がしてしまったそうだ
髪の毛が焦げるイヤな臭いが辺りに立ち込めたというから、おそらく頭髪も人毛だったのだろう
娘さん、たいへん恐縮して帰っていったそうである
そのあと、祖母が再び座らせると一度でぴたりと座った
そして人形は、主人の帰るまで、黙って座って待っていた

707: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:10:27 ID:uPnuLTciO
そして昭和20年3月10日がきた
運の悪い事に、母はそれまで静岡の方に学童疎開をしていたが、当時六年生であり、卒業進学の為にその一部の生徒は数日前から東京に戻ってきていた
その日、日付が9日から10日に変わって間もなく、空襲警報が鳴らされた
母と、まだ乳飲み子だった弟を背負った祖母は(その頃祖父はすでに他界していた)手荷物だけを持ち、かねてから決められていた近くの防空壕に、急いで飛び込んだそうである
街中の防空壕であるから、斜面に穴を穿つものではなく、竪穴式の、なかを四畳程に掘り広げ木材等で補強しただけの、はなはだ頼りないものであったらしいが、この場合はないよりは、はるかにましである
入り口には木枠にトタンが張り付けられた蓋がついていた
そこに班の者が膝を寄せ合って爆撃機の去るのを待つのである

708: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:15:27 ID:uPnuLTciO
班長が中にいる者の点呼をとる
ところが例の娘さんの一家だけが、まだ来ていなかったそうである
入り口に一番近い場所に座っていた母は、蓋をそっと細く開けて、外を覗いてみた
向こうから娘さんが、その後ろからその母親が、こちらに向かって走ってくるのが見えたそうだ
ハヤクハヤク、母は小さく叫んだそうだ

あと数メートル、という所で、彼女のすぐ後ろに焼夷弾が落ちた
後ろを走っていた母親には直撃、即死だったろう
そして娘の方は

709: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:17:39 ID:uPnuLTciO
実際、そんな時の悲鳴というのは物凄いものだそうだ
叫びというよりは咆哮、聞きようによっては、それこそ警報のサイレンにも聞こえる
そして、人間は青い炎を噴き上げながら燃えるということも知ったそうだ
焼夷弾の硫黄の臭いと、髪の毛を焼く臭いが鼻を突く
彼女はしばらくの間、立ちながら焼かれていたそうだが、やがて彼女の悲鳴は次第に細く高くなりついに崩れ折れ、それでもまだ青い炎を上げていたそうだ
その間、母は瞬きすることも出来ず見ていたらしい
地獄の炎、そんな言葉が頭に浮かぶ

深川への爆撃は20分程も続いたらしいが、おそろしく長い時間に感じられたそうである
しかも爆撃機はまだ上空を通過しており、今度は浅草の方の空が真っ赤である
辺りは火の海で、このまま壕にいたら蒸し焼きになってしまう、母達は壕を出て火の来ない所に移動する事にした
去り際に、あの娘の遺体を振り返った、あのきれいな人が丸坊主の、殆ど炭のようになっていたそうである
なぜか赤子のように手足を屈め、なんだか正座しながら拳闘でもしているような形で死んでいたそうである

710: 本当にあった怖い名無し 2007/04/06(金) 00:20:15 ID:uPnuLTciO
母が家に戻ったのは、もう夜が明けてからだった
周りにはまだ火を噴いている所もあり、母達は、家はもう、とっくに焼けて無くなったものと思っていた
けれどそうではなかった
家は、屋根を少し焦がしただけで、そこにあった
辺りの多くの家はまだ燻っているのに
玄関に男が一人座っていた
祖母の兄、私にとっては大叔父にあたる人だった
その人は深川が爆撃を受けた事を知ると、妹の身を案じ、品川から深川まで飛んできてくれたのだ
そしてあの火の中をありったけの水をかき集めて、降り注ぐ火の粉を夜通し払ってくれていた
実際エラい人でした、私もあの人の前では生涯、膝を崩すことはできなかった
そして、焼け残った家の中で、あの人形はちゃんと座っていたそうだ

それ以来、人形は座ることはなかった
人形ケースの中で背中を棒で支えられ、もう何十年も立っている

ミツオレニンギョウ ムスメカエシテ アルジヲタスケタルカ